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穴熊

何かを始めるとき、まず形から入るというのは悪くない考え方だと思う。例えば、試験勉強をする際、ゲームや漫画などの誘惑となるものを片付けたり、窓を閉めて騒音をシャットアウトしてからのぞんだほうが集中力は格段に増すであろう。もちろん、本当にやる気があるならば、誘惑に満ちたものがあろうが、騒音が気になる喫茶店であろうが勉強できるはずだという意見も正論だとは思う。しかし、だからといってあえて集中できない環境に身を置くことが正しい勉強のあり方ではないはずだ。

何が言いたいのかといえば、今私がお嬢様の部屋に運んでいるこの仰々しいホワイトボードも、これから始まるお嬢様のプレゼン?を大いに盛り上げるためのツール?になるに違いないということだ。嫌が上にも期待せざるを得ない。

と、さっきまでは思っていた。正確には、お嬢様がホワイトボードに謎の二文字を書くまでは。

「穴熊」(←ホワイトボードに書かれし戦略案。)

「これが私の戦略よ!」
バン!と手のひらでボードをたたいてアピールするお嬢様。

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はああ・・・。意味不明だ。
「な、なによ、その一昼夜時間をかけて考えた戦略がこの意味不明なキャッチコピーか、とか言いたげなため息は?」
わかっているじゃありませんか。実際わけがわからないんですってば。
「あの、えと、一応説明していただけますか?」
何故か私は正座して聞くことになっている。普段、売れない自称ミュージシャンに無理やり聴衆に駆り出される彼女のような気分だ。

「ふっ。いいわ。私の説明を聴いて驚愕しなさい。」
別の意味ですでに驚愕しているのだが、言わないほうがいいだろう。

「いい? まず簡単に一恋ちゃんの学生生活について確認するけど、彼女は午前中は教養の授業を受け、午後は私たち貴族と魔法学一般を学ぶことになっているわ。で、いじめが発生するのは庶民系学生と過ごす午前中に限られるの。」

なるほど。つまり、午前中の対策が必要になるのですね。

「そう。午前さえ乗り越えれば彼女は安泰なの。 だったら!」
お嬢様の声に力がこもる。

「一恋ちゃんの席を四隅のどこかに移動させて、周りを信頼できる生徒で固めて常駐で警護をさせればいいのよ!」

「ああ・・・だから穴熊。将棋の穴熊戦法に着想を得たのですね。」

穴熊、大事な玉将を四隅のどこかに配置し周りを香、桂、銀、金二枚で固める囲いをさす。防御力は最強で一度この囲いを成功させると攻め手は攻略に難儀することになる。但し、玉を囲うまでの手数が多くなるのが難点で、穴熊戦法がばれると囲いが成功する前に崩されることもあるという。
 首尾よく穴熊が成功すればそれはひとつの解決の形だろう。もちろん、いじめる子、いじめを傍観する子に罪の意識を持ってもらうのが最高の解決だが、現実には無理だ。なぜなら、今回のいじめは誰のせいというわけでもなく、学校の価値観にあわない子を排斥したいという気持ちがいじめの原因なのだから。いじめられることを前提に考え、そのうえで何ができるかを考えたほうが現実的かもしれない。

「でも、そこに至るまでのハードルは決して低くないと思います。一恋ちゃんのクラスで信頼できる生徒はいますか?また、その生徒はお嬢様の言うことを聞いてくれますか?」

「何言ってるの? 別に彼女だけのクラスに限る必要ないよ。まず、私がそのクラスに籍を移すわ。」

「勝手にそんなこと許されますかね。あと、お嬢様一人では守りゴマが少なすぎる気がしますよ。」
「許されるもなにも私が許すからいいんだよ。あとの守りゴマは、クラス内の菫さんの取り巻きに協力を仰いで、足りなかったらお金で雇うわ。」
なんという、力任せの戦略。お嬢様らしいといえばらしいが。あと、そこまでするのなら、菫さんの取り巻きだけでなく、千条派閥の方々にも協力を仰いだほうがいいと思ったけど、言うと怒るだろうな。
「ですがお嬢様。勝手によそのクラスに移籍するのは、学校側が許さないと思いますよ?」
「問題ないわ。いじめを放置する生徒会や教師側の意向にはもはや何の権威も感じないからね。来るなら来いだよ。邪魔するなら排除するだけ。」

「ですが、そんな身勝手なことをすればお嬢様も処分の対象になりますよ?」
「別に構わない。そのくらいの覚悟はある。」
「正式な処分がくだされれば、お母様にも報告が行きますよ?」
「あ・・・。そ、それは」
そんなことも読んでいなかったのか。呆れてしまうな。
「お嬢様は、この学校を卒業する義務がお母様に対してありますよね? 卒業して枢密院の一員となり姫宮のお家を盛り立てるという使命が。」
「・・・」
「その使命を、失礼ですが大して仲が良いとは思えない一恋様のために放棄して良いのですか?」
「あぅぅ・・・」
「お母様に反逆してまで、一恋様を守る意味がお嬢様にはありますか?」
畳み掛けるような私の問いに、お嬢様は若干たじろぎつつ、
「そ、それは、無理だけど。でも目の前に困った子がいるのならそれを助けたいと思うのは人間として自然な気持ちだよ!第一、私までこの問題に無関心になったら一恋ちゃんはどうなるのさ!」
「そうです。ですから、お嬢様は自分にとって無理のない範囲で助けて差し上げれば良いのですよ。」
「そこまで言うのなら、あんたにも策があるんでしょうね!?」
若干キレ気味に問いただすお嬢様。
「あります!」
「・・・へえェ」
一拍間を置き、お嬢様は目をやや大きく開いて私の顔を見る。ハッタリでない事に驚かれているようだ。
「是非、拝聴したいわね。」
というわけで、お嬢様はベッドに腰掛け、その代わり、今度は私がホワイトボードの前に立つことになった。本当によかった。何が良かったって、これでこのプレゼンが終わっていたら、このホワイトボートは「穴熊」という2文字が書かれただけでその短い使命を終え、暗い倉庫にしまわれ二度と日の目を見ることはないからだ。お嬢様がこんなものをまた使用するとはとても思えないからね。
 まあ、戯言はともかく、私も人生初のプレゼンを始めよう。緊張しますね。

・・・



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Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

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もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

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