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突き上げ!

由納美言。南国のお姫様だが人質同然で帝都に派遣された由納辺境伯の令嬢。その家格は、姫宮家、千条家と同じく選帝侯クラス、つまり皇帝選出権を持つ最高ランクの貴族の出身だ。

「お姉さまのお言いつけに従いまして、貴族系の学生の意見を吸い上げるという名目で、不満のガス抜き大会を開催してまいりましたあ♪」
南国人特有のハキハキとした口調だ。彼女は同じ人質という境遇のせいで千条様によくなついている。類は友を呼ぶ、というパターンだ。彼女の長い栗色の髪には小さな白い花が咲いている。

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「悪いな、嫌な仕事を押し付けてしまって。」
「いえいえ、それより報酬はoneキッス、一ハグですよ♪」
丸くてぱっちりしたお目目をウインクさせて場の空気ピンク色に染め上げる由納様。それにしても、わんきっす、いちはぐ? なんのことでしょうか。千条様は何故か由納様に目を合わせようとしない。どうやら、千条様と由納様の間で何らかの裏取引があったようだ。
「あ、いや。まあ、ここは人目があるからあとでね。」
「はあい。今夜寝室に伺わせていただきまあす♪」
「いや、来なくていいからからね?何を妄想しているのか知らないが、変なことをしに来たら全力で抵抗するからな?」
慌てて釘を刺す千条様。千条さまでもたじろぐことがあるのですね。これは驚いた。
「ええっ!? 私が攻めですか? ううん、私はどちらかというとリードされる方が好きなのにい。」
不満げに、ぷくーとむくれてみせる由納様。ふむ、どうやら由納様は千条様に特別な感情を抱いているようだ。
「攻め・・・?一体何の話をしているんだい?」
どうやら千条様は付き合いきれないようだ。

「ああっ、分かりましたよ!」
重大な秘密に気づいてしまった、とでも言いたげな表情の由納様。
「一応聞いておくけど、何がわかったのかな?」
顔に冷や汗をかきながら千条様は問いただす。

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「自分が欲しかったら戦って奪い取ってみせろ、ということですね?」
「いや、全然違うからね? 夜中に魔法バトルなんてするつもりはチリほどもないからな?」

「あのさあ、乳繰り合いならあとにしてくんないかなあ? ぶっちゃけ、あんたらのキモイ関係になんて興味ないのよ。」
今まで耐えて聞いていたお嬢様がついにキレた。いやあ、今日はよく頑張ったほうだと思う。

「むうぅ・・・」
ハッピータイム?に横槍をいれられて不満気に口を尖らせる由納様。
「で、どうする今日の話し合いは?やっぱり私の部屋使う?」

旧校舎のお嬢様のお部屋はその高い身分に合わせてとても大きい。大きめの会議ならばお嬢様のお部屋を使うべきだ。しかし今日は、

「いや、最近旧校舎で怪しい会議が立て続けに開かれている、という噂が学生の中に駆け巡っている。我々のように身分の高い者どうしの会合は特に注目されてしまうだろう。面倒だが、今回は、一旦解散にして各自帰宅して欲しい。次の日曜日に私の家で会議を開きたいのだが。」

という千条様のご提案。少し慎重すぎるような気がしなくもない。
「もちろん、美言はお姉様の御意のままに。どこまでもついていきます。そう、シャワールームでもベットの中でも。」
「いや、会議が終わったらすぐに帰ってもらうからな?」
また、あわてて釘を指す千条様。以前のトラウマを振り払うかのようなきっぱりとした口調だ。
「お嬢様はどうしますか?」
「そうねえ、めんどいけど。」
あまり乗り気がない。当然だ。もともと好きで付き合ってるわけではないし。

「気持ちはわかるが、我々のようなビックプレーヤーが3人も集まって長時間の会談を行ったという事実だけでも、変な憶測が流れる元凶になるだろう?生徒会側の警戒心をいたずらに刺激すると、どんな嫌がらせをしかけてくるかわからない。」

「そうですね。盗聴とかしてくるかもしれませんね。旧校舎に出入りしている全ての人間が信頼できるわけではないですし。美言が報告する内容は外部に漏れると困るんですよね。」
由納様はそれまでのキャピキャピ調を改めやや真剣に言った。

「まあ、一恋ちゃんのいじめ問題の解決につながることなら反論はないけども。」
お嬢様も納得したようだ。

というわけで、今日は解散となった。

そして、日曜日。
会談は千条家の敷地に設置された休憩所で行われることになった。竹林は小さな山になっていてその頂上に休憩場が設置されていた。たどり着くだけでちょっと汗ばんでしまう。
「どうでもいいけど、この山道、作りおかしくない?なんで一段一段段差が微妙に違うわけ?歩きづらくてしょうがないよ。」
登山後二分で早くもお嬢様が不満をこぼした。

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「迎撃ないしは逃亡の準備の時間を稼ぐためだ。」
「はあ!?」
こいつ何言ってんの頭大丈夫?みたいな口調で私に同意を求めようとするのやめてくださいお嬢様。ほら、想い人を侮辱されたと思って由納様がこっち睨んでるよ。
「はは、万一敵の侵入を許した場合、こうやって段差がふぞろいの方が侵攻に時間がかかるだろう?もちろんそれで稼げる時間などたがかしれているが、そのわずかの時間が有事の際は生死を分けることもあるんだ。」
幸いにも千条様はお嬢様の不穏当な態度にも全く意に介さず丁寧な説明を続けてくれた。これが、人間の器の違いというものか。

千条様のお屋敷は、瀟洒な洋館、田畑、それから竹林の三区画よって構成されていた。質実剛健を美徳とする北国らしい無駄のない合理的な佇まいだ。食料生産基地としての田畑それから小物作りの供給源になりうる竹林。さらに、洋館の屋根には多数のソーラーパネルが設置されている。

「私は人質同然で帝都に住んでいるからな。いつどんな嫌がらせを受けるかわからない。なるべく自給できるものは自給しておきたいんだ。贅沢しなければ食料はほとんど自給可能であり、電力に至っては余剰分を売電して利益を上げているくらいだ。」
「へえェ・・・」
お嬢様は驚いておられる。無理もない。今までは権力欲に取り憑かれた激痛な女の子という認識しかなかったですし。
「この竹林も、」
千条様は話を続ける。どうでもいいが、竹林のなかはとても落ち着く。思索にふけるには最適な場所ではないだろうか。
「表向きは竹細工をつくるためとなっているが半分は違う。万一の場合、竹を切って竹槍を急造し最期の抵抗をするための場所なんだ。」

どんな覚悟で日常生活を送っているのですかっ、あなたは!?いや、人質という境遇は千条様のような大物でも人を不安にするものなのか、少し考え込んでしまう。その直後、千条様から聞いた話だが、本当は道場を設置して屋敷の構造を四区画構造にしたかったらしい。だが、人質という立場で武芸の修練を積むための大規模施設を作るのはあらぬ疑念を招く恐れありとして断念したようだ。その代わり、彼女の使用人たちには、機械に頼らずに人力で田畑を耕作させることにより体力の衰えを防がせているという。言うまでもなく有事の際に役に立たない体にしないためだ。いやはやなんとも、

「つくづくあんたって妄想世界の不思議な住人だよね」

って、発言がど直球すぎますよお嬢様!!!!!

「ちょっとあんた!言葉が過ぎるでしょう? 皇帝家の犬に成り下がってその庇護下でぬくぬくと富貴な身分をエンジョイしている姫宮さんには理解できないかもだけど、私も千条様も帝都へ来てから何度も身の危険を感じているんだよっ!?」
「はあっ?富貴な身分って、私はそんな贅沢な暮らししてないし。身の危険を感じるのはあなたたちの実家が不穏な動きを見せるからでしょう?」

ついに由納様がお嬢様に猛然と抗議してきた。まいったな、お嬢様をフォローしなければならない私だが、どこをどおフォローしたらいいのか分からない。

「美言!やめなさい。私は気にしてない。」
冷厳とした口調の中に優しさも感じられる声色で千条様は由納様をたしなめた。
「ですがっ!お姉さま。私は悔しいですっ!」
「私たちの気持ちは、私たちと同じ立場にならなければ理解はできん。他人に無理やり共感を求めようとするのは時間と労力の浪費だ。」

皇帝家に税権も法権も接収され、そのかわりサラリーを受け取る延臣として延命することを選択した姫宮家。

税権と法権の奉還を拒否し続け、ミニマム政府としての自負を守り続ける千条家と由納家。


同じ貴族とは言え、皇帝家に対する距離感がまるで違うためどうしても軋轢か生じやすい。

「二人共冷静になるんだ。今日は喧嘩をするために集まったわけじゃないだろう?ほら、もう目的地が見えてきたぞ。茶でも飲みながらゆっくり私たちの話をしようじゃないか。」

おお、竹やぶから開けた土地にでてそこに見えるは休憩所・・・じゃなくてお寺?

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びっくりしたな寺だよ寺。網目状の板で12畳ほどの畳の空間が仕切られている。半分が仏様のための空間で、もう半分は参拝者が拝むための空間だ。仏像は三体安置されていて、その前には小さな鐘やお賽銭箱も設置されていた。なんというか、清潔で冷涼な空間だ。
 だが、この神聖な空間にはややそぐわない要素も散見される。例えば、お堂の中にはジャンクフードやおもちゃやぬいぐるみが所狭しと並べられている。さらに、お堂周辺には、シーソーやジャングルジム、ブランコといった遊具が設置されているのだ。

「休憩所っていうから丸太小屋みたいなのを想像していたけど、まさか持仏堂とは思いませんでした。それに、この景色が素晴らしいじゃないですか。帝都が一望できるよ。」
由納様は一人駆け出し、景観を満喫している。
「そーだね。ここで、大出力の爆撃魔法を放てば帝都制圧も容易でしょうねえ。」
ちょ!お嬢様。今日も天気がいいわねえといったのりで、のほほんと千条様を挑発するのは程々にしてくださいよ。背筋に冷たい汗が伝わってきますよ。
「ちょっと、そこの皇帝家の犬!いい加減に戯言を慎まないと素っ首を叩き切って享年12歳にするわよ!」
由納様、今日二回目の激怒。
「あら、ごめんなさい。今のは私のミスだわ。由納様のような、野原で蛮刀を振るって妖精どもを追い掛け回して育った田舎貴族の娘には、雅な都のジョークは通じないことぐらい想定できてしかるべきだったわ。」
ごめんなちゃい、とばかりにペコリと頭を下げるお嬢様。しかし、当然というべきだが、侮辱された由納様は悔しさで体をプルプルさせている。仮に由納様が、怒気を物理殺傷能力に変換する魔法を使えた場合、蚊ぐらいは消し飛ぶかもしれないぐらい緊迫した様相を呈してきた。
「・・・ない」
「え・・・何?」
人は本気で怒るとむしろ寡黙になると言われているが、由納様も同じようだ。
「私は妖精をいじめたことなんて一度もない!」
怒りを地面に叩きつけるような凄みがあった。場の空気は急速に凍りついていく。
「あらごめんなさい。では、今の発言は撤回するわ。でも、妖精の羽が帝都で高値で取引されているのはどう説明するわけ?」
「そ、それは・・・でも私自身はそんなことに」
「手は染めてないでしょうね。わかりますとも。」
猫のような可愛らしい笑顔で返答するキャサリンお嬢様がむしろ怖く思える。
「でもね、あなたのお国の人は間違いなく妖精の羽をむしり取って金儲け」
「やめてっ!」

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動揺を隠しきれなくなった由納様はとうとうしゃがみこんでしまった。しかし、お嬢様の舌鋒は刃のように鋭い。
「金儲けしてるでしょうし、あなたは由納公国の娘として国政に関して一定の発言権を持つはずよね?なのにどうして何も言わないのかしら。私気になります。」
「う・・うぅ。」

妖精の羽。透明度が高い上、日に照らすと七色に光るその特徴ゆえ高級装飾品には欠かせない材料となっている。建前上は妖精の羽の輸出を厳禁としている由納公国であるが,南下政策に対抗するための新式の武器を調達するために密貿易をしているのではないかという説がある。また、帝国の南下政策を思いとどまらせるために帝国内の各要人に賄賂がわりに提供しているという噂もある。まあ、どちらにしても由納公国の安全保障のために妖精が虐待されていることに変わりはない。

「いい?妖精への虐待を知りつつそれを看過しているあなたには妖精を擁護する権利なんてないの。」
三日月のように口をニマーっと歪ませて言葉の毒矢を射掛けるお嬢様。
「さらに言えばね。千条さんのことをお姉さまなんて言って慕っているようだけどね。貴方のお国の陰謀が奏功して帝国が南下政策を放棄した場合♪」
歌うようにお嬢様は言葉を紡ぎ出す。黙って聞いている由納様のお顔が紙よりも白くなってきた。しかしお嬢様は躊躇せずに二本目の毒矢を射る。
「それは帝国内の北伐派の勝利、つまり千条さんのお国を攻撃することにつながるのよ?わかる?あなたには千条さんを慕う権利さえもないのっ!」

お嬢様の口擊が佳境に入りいよいよその勢いがクライマックスにはいろうとした刹那、パアンという乾いた音が空気を震わせた。千条様のビンタがお嬢様の頬に炸裂したのだ。
「く、あ、あんたネエ・・・」
獲物を狩る邪魔をされたライオンのごとく獰猛な顔つきで不意の攻撃者を睨むお嬢様にまるでひるむ様子も見せず千条様は、
「失礼。キャサリンさんの顔に蚊が止まっていたのでね。」
と、軽くいなしてみせた。そのお顔は悲しみとも哀れみとも怒りとも優しさとも言えぬなんとも名状しがたい不思議な表情であった。それはちょうどここのお堂の中にある仏様のような顔だ。
「由納。それからキャサリンさん。」
「はい。」
「なによ。」
「もう一度、周りをよく見ろ!ここは、死者の魂を慰めるための場所だぞ。憂き世に生きる者どもが俗世のことで喧嘩をしてその魂を愚弄することは許されない。はっきり言うが、ふざけるなよっ!」
いつも温厚な千条様にしては珍しく語気が強い。
「あうぅ・・・」
由納様は、お嬢様に口激されていた時よりもさらに数倍顔に血の気がなくなってしまった。もはや立っていることもできなくなり地面にへたりこんでいる。本当に千条様を慕っているのだろう。
「ふんっ。興が覚めたわ。」
対するお嬢様は、千条様の強い気に多少気勢をそがれはしたものの、まだ堂々と不満を顔に出す余裕がある。そのお嬢様の顔を見た千条様は、今度は優しいお顔になった。
「キャサリンさん。ここはね、子供の死者を慰めるための場所なんだ。不幸にして幼くして亡くなってしまったかわいそうな子供。しかも、身よりもなく一人ぼっちで亡くなってしまった子供たちが眠る場所だ。」
「「「え・・・?」」」
ハッと息を呑む一同。
「有り体に言えば野垂れ死にした子供だ。誰にもケアされずに、ね。千条家は、というか私は、そういう子供たちが死後みんなで遊べるように彼らの遺骨をここに安置している。もちろん、死んだ子供の面倒を見る余裕があるのなら生きている人間を優先しろ、という批判も多い。だが、たとえ馬鹿だと思われようとも、最後の最後まで一人ぼっちで死んでいくより他に選択肢が無かった子供のことがどうしても気になって仕方がないんだ。彼らが一人でどんな気持ちで死んでいったのか、考えてしまうんだ。」
「身寄りのない子供、そのほとんどは賤民身分でしょうね・・・」
賤民街での記憶が蘇る。物乞いをする毎日。たまに配給される貴族からの施しもので命をつなぐしかないので、その日さえ生き残ればそれでいいというあの感覚。せっかく手に入れた食料も盗まれてしまうことが多いので常に緊張して生きていた。今でも夢に見てしまう。
「そうだな、生まれてくるときに泣くのは身分に関わりは無い。だが、生きるときにも死ぬときにも泣くより他にないのは不幸な賤民だけだ。なら、せめて死後の世界ぐらいでは笑っていて欲しい。」
「そいうことなら、ここに眠る子たちの魂はきっと安らかでしょう。」
それが、金持ちの自己満足にしかならないとしても、やらない偽善よりもやる偽善の方が尊い,と思う。

しんみりとした風が肌をなでた。

「おっと、だいぶ時間が経過してしまった。さっさとやることやって解散しよう。」
「そうですね」これは、由納様。「そうね、早く帰りたいし」こちらは、お嬢様。

持仏堂の前半分、つまり仕切りをはさんで仏様の真向かいに一同着座した。子供を慰めるための寺なので、持仏堂内は、チョコレート、ポテチ、せんべい、キャンディ、等、各種ジャンクフードで満ち溢れている。驚いたことに、全て賞味期限が切れていない。

「各自、好きなものを食べてくれ。子供たちも、共食したほうが嬉しいだろうかな。」
というわけで、
お嬢様は、チョコレートクッキー、由納様は、温泉まんじゅう、僭越ながら私はおせんべい、千条様はりんごパイをいただくことにした。

一息ついた。

「で、早速今日の本題に入るが、本件、つまり一恋さんのいじめに対してあいつらはどうしろと言ってるんだ?由納。」
「はい、結論としましては、」
ちょっと長くなるので由納様の報告は私がまとめよう。ちなみに、あいつら、とはもちろん貴族系学生のことだ。

1. 度重なるいじめに適切な対応をとる意欲のない生徒会執行部は、特別チームを作って本件に関する責任と権限をこれに譲渡せよ
2.特別チームを編成する権限は、我々旧校舎側=貴族系学生に付与せよ。

「いきなり厳しい要求だな。彼らが飲むとは思えない。」千条様はまゆをひそめる。
「でも、このくらい思い切ったことをやらないと解決の目処が立たないよ。」と、同意するのはお嬢様。
「ふん、身分闘争に転化するとあとあと厄介だヨ」と冷たく切って捨てる由納様。やはり、まだ怒ってるようだ。

3.生徒会側が上記の要求を黙殺した場合、旧校舎側は枢密学校で業務に従事する全ての賤民を引き上げる。

「ストをちらつかせて、要求を飲ませようというのか。なるほど。」しばし考え込む千条様。
「貴族の意向を受けて、枢密内でボランティアで奉仕する賤民がいなければ、トイレ掃除も、教室のお掃除も、備品管理も、食堂も、全部ストップするね。機能不全になるわ。なんか一週間もすれば枢密内で悪臭が漂いそうな気がする。」
「実際、枢密学校での賤民の活動は素晴らしいです。彼らがトイレ掃除をすれば、そこで昼寝をしても全然不潔じゃないという伝説があるくらいですから。」

4.上記の条件につき、回答期限は本書提出後48時間以内と定める。
「時間制限を設けたか。あいつらも本気だな。」千条様は、少し苛立ったような雰囲気になってきた。
「はい。今回でケリをつけてやる、と息巻いてました。正直、少し怖かったです。」突風が吹くような会議を思い出したのか、由納様は身震いをした。
「ふん、まあ、時間制限を設けるは当然ね。生徒会サイドが代案をこしらえて時間稼ぎに走る手はあらかじめ封じておくべきよ。もう、何回もいじめ問題を解決する機会はあったはずだから、ね。」

5.上記1項、2項の要求を受諾した場合、賤民は今までどおりの業務に付かせる。但し、本件について、福山みゆきは、生徒会副会長として著しく不適格であることが判明したので、その職を辞すこと。但し、人の上に立つリーダーとしてふさわしい素養を千条様のもとで身に付け、改善の見込みが見られる場合は再度復帰を可能とする。

6.5項は、上記1項、2項を受託した後、24時間以内に回答すること。拒否または未回答の場合は、枢密学校で業務に従事する全ての賤民を引き上げる。


一同、絶句。

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誰も発言できない時間がゆっくりと流れた。どうして、こういう気まずい空気を他人と共有する時間はこんなにも遅く感じられるのだろう。でも、どんなに嫌でも気まずくても、誰かがこの空気を破らなければならない。
「憂鬱だ、実に憂鬱だ。」
最初に破ったのは千条様だった。両手を畳につけ天を仰ぐような仕草をみせ、何かを考え込むように両目をつぶっている。千条様が動いたとたん、ふわっと果実の匂いが舞ったのは、汗とともに匂い成分を放散させる魔法を使用しているからだろう。汗の臭いを気にするような女の子っぽい一面がとても意外で思わず可愛いなと思ってしまった。それを口に出したら真っ赤な顔で恥ずかしがったりするのだろうか。もしそうなら、普段のツンツンぶりが奏功して可愛さ10倍だ。ともかく、こういうちょっとしたことで貴族に対するあこがれが強くなる。こういうおしゃれは富裕な庶民でも絶対に真似が出来ないからだ。

ちなみに、お嬢様の金髪も魔法の賜物だ。以前、テレビでライオンがシマウマを追いかけて疾走するシーンを見て、「金色こそ、強さの象徴だわ!」とのたまったと思えば、私がまたたきした瞬間にはすでに髪が金色に変わっていた。魔力の無駄使いとしか思えない。

それはそうと今は目の前の問題に集中することが肝要であろう。

「何が憂鬱なのさ。あんたにとっては、これ以上ないくらい名誉な要求じゃない?」
何が不満なんだよ、と言いたげな口調のお嬢様。
「あーあ、その第5項があんたの名前じゃなくて私の名前だったら完璧なんだけどなあ。」
ええと、第5項の該当箇所をお嬢様の名前に直すとこうなるな。

「人の上に立つリーダーとしてふさわしい素養を姫宮キャサリン様のもとで身に付け、改善の見込みが見られる場合は再度復帰を可能とする。」

「ねーよ。この文章、他ならぬお姉様のお名前が入ってるからギリギリのラインで品格を保っていられるんだよ!?ここにあんたの名前なんか入ったら、凄まじい勢いでアホっぽい文章になるじゃない!!そのくらい分かるでしょう!?」

今目の前で言われた発言に対して脳が処理できないご様子のお嬢様は目を満月のように丸くして発言内容の理解に務めている。そして、その内容を完全に理解すると、ガタっと音を立てて立ち上がり、腕を組んで由納様を見下ろし猛然と宣言した。

「我が人生最大の侮辱だわっ!許すわけにはいかないっ。私は由納美言に決闘を申し込む!」
「受けてたとうじゃないの、皇帝家の犬娘がっ!」

取っ組み合いの喧嘩が今まさに始まった。お嬢様は猛然とタックル。由納様ひらりと体をかわす。お嬢様、賽銭箱に激突。痛みに耐えるすきに由納様は「wind」と詠唱しカッターのような形をした風がお嬢様の体に放たれる。お嬢様「holly wall」と詠唱し、目に見えない簡易な壁を作り、風のカッターの軌道がそれる。カッター状の風は畳と仏像の間を仕切る網目状の木造の遮蔽物を切り裂いて尚勢い衰えず、お供え物のポテチの山に突入。ポテチの袋大破、中身が飛び散る。もったいない。というか、この持仏堂、国宝級の価値があるんじゃないの?流石にヤバくない?と思っていたら。

「serious paralysis!」
と、千条様が一喝した刹那、由納様とお嬢様の体が動かなくなってしまった。

「なあ、おまえら。いや、由納様に姫宮様。」
あえて敬語を使うことで少しでもこの問題児の二人に真剣に話を聞かせたいのだろう。
「先刻、私はこの場所が亡くなった子供たちが眠る神聖な場所だとお話したはずだ。」
「・・・」
動けないふたりは黙って聞くより仕方がない。
「あなたがたもそれに納得したと私は理解した。あなたがた二人は、例え仲が良くなくても、無念の死を遂げた子供たちの前で無分別な行動をとらない程度には自制心のある人だと私は信じていた。」
「・・・」
千条様は立ち上がり粉々に飛び散ってしまったポテチを片付けている。言うまでもなく、このポテチ類は子供たちの霊を慰めるために千条様が供えたものだ。
「しかし、あなたがた二人は、どうやらここが神聖な場所であろうとも関心が無いみたいだな。」
千条様は袋の中で飛散を免れたポテチを大きなボウルに移している。大貴族の娘が貧乏臭いなんて思わないで欲しい。貴族倫理規定にも記載されている。食べ物を粗末にするなかれ、とね。
ふう、と作業が一段落した後、少女はため息をついた。
「ここは、私にとっても、とても大事な場所だ。その大事な場所にあなたがたを招いた。その意図をくんで欲しい、と要求するのは私の甘えが過ぎるかね?」
と言い、千条様は元いた場所に着座し目の前にポテチの入ったボウルを置いた。その刹那、二人の呪縛が解けて、体がガクッと動いた。
「「ぷふぁ。」」
同時に大きく息を吐き出す二人。動きたくても動けない時間はいわば金縛りと同じで見た目以上に辛かったはずだ。
「憂殿」
「ふぇええっ!?」
いやね、私って、ほら、お嬢様の付き人だから、いわば部外者でしょ? だから、傍観者でなきゃいけないと思っていたし。まさか、千条様から直言を賜るなんて夢にも思っていなかったから。焦って変な声が出ちゃったよ。この流れはあれじゃない?主君の躾がなってないとかで説教される流れじゃない?怖わわわわ・・・。

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「主君のわがままを全て聞くことだけが家来の勤めではないと思うぞ。」
「おそれいります。」
やっぱり説教だ。でも、これに関しては私にもポリシーがある。
「ですが、忠誠の本質は服従だと思います。」
「それは違う。それは違うぞっ!主君が道を誤りそうな場合、優秀な家来は体を張ってでも主君に反逆しなければならない。忠誠とはそういうものだ。」

優秀な家来であれば、という文言からは、凡庸な家来で良いのならばそのままでいなさい、という含みが感じられる。
「はあ・・・」
おっしゃることはなんとなくわかる。イエスマンばかりに囲まれていると、主君は自分の言葉には普遍性があると信じ、あげく独裁者になってしまうというお話はたくさんある。でも、姫宮家には姫宮家のカラーがある。それは尊重して欲しい。
「まあ、忠誠の示し方には色々な道があることだけは心得ておきなさい。」
やや納得できない私の表情を汲み取っとていただいたのか、それとも単に時間的余裕がなかったからか、千条様はそれ以上追求しなかった。

「さて、会議を続ける。以後、会議の妨害をした者は誰であろうとこの場から退場していただく。」
至極、当たり前の話を、しかし千条様は真剣に宣言しなければならない。それほど、ここにいる人たちのレベルが低いということだ。
「但し、発言はどんどんしなさい。萎縮する必要はないぞ。」
会議を妨害することと自由闊達に意見を交わすことはまるで違う。これも当たり前。

「で、先ほどの貴族系生徒からの要望書だが。私の名義であのままの要望書を生徒会に提出することはできない。理由は説明するまでもないだろう。」
がたっ、と誰かの体が崩れる音が響いた。由納様だ。
「ん?どうした由納?言いたいこと忌憚なく言いなさい。」
「お姉さま。それは勘弁して欲しいです。私、千条様からのサインをもらって来いときつく言われていますから。」
「あのなあ、そんなにこの要望にこだわるなら、私の名義抜きで勝手にその要望書を提出すればいいだろう?」
「事実上、旧校舎を牛耳るお姉様のお名前が入らない要望書なんて効果ないですよ!」
「勘違いするな。要求をもっと現実的なものに変更して欲しいだけだ。そうすれば私も賛成する。」
「彼女たちはっ!」
彼らはとは貴族系学生のことであろう。由納様は、慕っているはずの千条様に若干厳しい口調で詰め寄った。よほど、貴族系学生から圧力をかけられているのだろう。
「要望書が受け入れられない場合、次の選挙では千条様の推薦する候補には投票しないと言ってますよ!」
「なに?」
耳を疑う千条様。飼い犬に噛まれた、とは言い過ぎだが、まさかそこまで貴族系学生たちが圧力をかけてくるとは想定外だったようだ。
「前回の生徒会役員選挙では、お姉様の派閥と貴族系学生13名のご支援で大野さんを第五位当選者にしましたよね?つまり、貴族系学生は選挙の恩人です。彼らにしてみれば、その恩を目に見える形で少しでも返して欲しいんですよ!」
「なるほど、それが彼女たちの気持ち、か。」

私も千条様のことは以前から気になっていた。そのため、お嬢様に質問したり、学園裏サイトを閲覧したり、学園内で無償労働に勤しむ同じ賤民身分の同僚からいろいろ情報を集めていた。その結果、次期生徒会役員選挙での千条様の選挙戦術がなんとなく推測できたので紹介しておこう。

現状、千条様には三台の集票マシンがある。

①自前の派閥メンバー(成績劣等生の集団、30人以上はいる。)
②由納美言様が束ねる貴族系学生(13名)
③学内で人気の高い菫さん(固定票ではないので計測不能。)

私の仮説が正しければ、千条様にとって、貴族票は確実に計算に入れられる貴重な固定票。絶対に失えないはずだ。

「うむ、由納。彼女たちの真意はどこにあると思う?」
「一恋ちゃんのいじめに対する抗議。というのは建前で、これ以上貴族が馬鹿にされるのが我慢ならないのだと思います。災い転じて福となす、ではないですが、この機会を逆手に取り、庶民系学生に貴族の権力のなんたるかを思い出させたいのでしょう。」
「だろうな。一恋さんへのいじめは、貴族の権威を著しく失墜させる事案だ。それは、現実社会での我々貴族階級の凋落と重なって見えて、余計に不快になるのだろう。」
「私も正直腹が立つわ。やっぱり、私たちは団結すべきだよ。」
黙ってきいいたお嬢様も同調した。

この時点で私は疑問に思ったことがある。この3人は今まで

①いじめは絶対悪。だから容認できない。

というスタンスであったはず。だがそれは建前。ここに来て

②貴族の学生へのいじめは仲間意識から容認できない。

という本音が浮かび上がったように思える。

「だが、この要望書では非現実的すぎる。例えば、生徒会副会長の罷免など、たかだが13人、私と由納と姫宮さんを合わせれば16人になるが、その程度の人数の署名では実現不可能だ。」
由納様は、学生手帳を開いた。
「全校生徒は300名+貴族系学生16名の316人ですから。生徒会役員を罷免させるためには全校生徒の2割以上、つまり64名以上の署名を集め、その上で臨時生徒総会を開き、過半数の賛成が必要になります。」
お嬢様ははああっとため息をついて
「そんなにハードル高いんだ。」

「そう、ハードルは高いのだよ。当然だ。民主的な手続きを経て選出された身分はとても重い。その重い身分を覆すには、やはり民主的な手続きを経なければならない。私はそれは正しいと思う」
千条様はきっぱりと言い切った。どんなに気に入らなくても、正しいことは正しいというしかない。その潔さが千条様の魅力かもしれない。

「つまり、福山みゆきを罷免させる要求は無駄だ。あとは、いじめに関する特別チームの編成か。それについては賛成しよう。だがストはダメだ。」
「どうしてよっ!」
お嬢様がガルガルと機嫌の悪い犬のように噛み付いた。
「影響が大きすぎる。関係のない学生を巻き込んではいけない。」
「でも、悪いのはあいつら生徒会じゃん。」
「我々目線で言えばな。だが、多くの生徒からすれば関係のないことだ。無関係な人間まで巻き込んではいけない。」
「それはお姉さまらしからぬ発言だと思います!」
「ほう。それは、どういうことだ。」
思わぬ横槍に、すっと目を細める千条様。正直怖い。
「普段のお姉さまなら、権力を振るうべき時は躊躇せずに振るうはずです。そして、今は明らかに振るうべき時です。それをあえて振るわないお姉様の本音は、本音は、」
由納様は恐怖のせいかガタガタ体が震えている。
「どうした?由納?」
「お姉さまは、次の選挙に勝ちたいから。あまり敵を作りたくないだけじゃないですか?」
ちっ、という舌打ちの音が響いたような気がした。実際にはどうなのか、わからなかったが、千条様が苛立っているのは間違いない。
「確かに、今、この時点で敵は作りたくない。菫さんが気持ちよく選挙を戦える環境を整えることが急務だからだ。菫さんの支援者である私が貴族系学生の肩ばかりもっていると、菫さんまで貴族の代弁者のような印象を周りの学生に与えてしまう。これでは、庶民系学生からの支持がこぼれてしまう。」
「あんたね、結局権力を掌握することしか考えてないじゃん。本当は一恋ちゃんのいじめのことなんかどうでもいいと思ってるんじゃないの?」
お嬢様は、するどく突っ込んだ。確かに、千条様の真意は見えにくい。

「心外だな。私とて彼女のことは守りたい。だが、枢密学校で私が権力を掌握しなければ、いじめは一恋さんだけの問題ではなくなるぞ。」
「はあ?どういうこと?」
「福山さんは、貴族系学生を枢密に推薦するつもりはない。それどころか、福山さんは実家の指示を受けて、皇帝家と裏で結びつている。彼女の狙いは、帝国北方の辺境地帯、つまり旧武装中立同盟地帯の総督として彼らを派遣することだ。」
「あら、名誉なことじゃない。総督と言ったら福王。つまり、皇帝代理の待遇よ?栄転だわ。」
「なにが名誉なことよ!旧武装中立同盟地域はもともと千条大公国の衛星国が分有割拠して支配していた地域だよ。お姉様の手前、非常に申し上げにくいですが敵国同然の地域じゃないですかっ。そんな危険な地域に、ろくな経験もない学生を派遣するなんて死ねと言ってるようなものじゃないですかっ!栄転どことか、島流しだわ。」
「ねえ、千条さん、ちょっといい?」
いつになく緊張した面持ちでお嬢様が質問した。顔面蒼白で肩で息をするお嬢様はとてつもなく不安そう。なにか重大なことに気がついてしまったようだ。
「なんだ?」
「あんた、多分、気を使って皇帝家という言葉を使ってくれたけどさ。今、帝国を牛耳ってるのは皇帝家である竜宮家と姫宮家なわけじゃん? で、世間では両家の名前をとって、現体制を両宮体制と呼称しているわけだけど。今のあんたの話が本当なら、私の母もその計画に一枚噛んでる、というか深く関わってるよね?」
「当然、そうなるな。本件の陰謀は、国家の象徴としての竜宮家、最大貴族の姫宮家、最大資産家の福山家が結託して生まれたものだ。事あるごに国政に干渉するうざい貴族勢力を辺境の地に追いやり、皇帝を象徴として戴く中央集権国家を作りたいのだろう。」
「そんなひどいですっ!結局、ぽっと出のエリートが権力を振るいやすい仕組みにしたいだけじゃないですか?」
「お母様からは、何も聞いてない・・・」
お嬢様は寂しそうにポツリとおっしゃった。
「まあ、子供に言うことではないだろうからな。」
千条様はさらりと慰める。うん、確かに、この手のややこしい大人の話は子供にする話じゃないだろう。それでも、自分のあづかり知らぬところで自分たちの仲間の運命が決定されていくその流れに自分の母親が参画している。これは、子供として面白い話ではないだろう。

「まあ、ともかくだ。福山さんの野望は、次期選挙で全議席を奪取し、満場一致で貴族系学生の栄転、に見せかけた島流しを陛下に上奏し、これを実現し、我々の政治的立場を破壊することだ。」

まあ、陰謀の張本人である姫宮家と他国からの大事な預かりものである千条様と由納様は関係がないのではないかと申し上げたいところである。でも、突っ込んだら面倒そうだ。

「で、腐っても旧校舎のトップを務めている私は、なんとしてでもこの野望を阻止しなければならない。わかるな?」
有無を言わさぬ口調だが、それについては一同異論がない。
「そのためには、次の選挙で確実に一議席、できれば生徒会役員の人事権を掌握する第一位当選者にすみれさんになってもらわなければならない。」

まあ、わかる。貴族島流し案は、少なくとも見かけ上だけでも枢密学校の総意でなければ効力がないからだ。そうでなければ、陛下も勅令が出せない。つまり、生徒会役員の満場一致さえ防げば貴族側の勝利となる。
千条様が第一位当選にこだわるのは、福山派閥のトップを名誉職である生徒会会長に就かせてその求心力を削ぐためだろう。

「そのためには、今ここで、貴族系学生の要望を生徒会にぶつけて庶民系学生の不興を買うわけにはいはいかないんだ。貴族票だけでは、次の選挙に勝てないからな。」

「お姉様の話は分かりますが、それでは彼女たちの怒りがおさまらないかと。」

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「由納、私が一恋さんの護衛につくという条件で彼女たちの不満を抑えられないか?」
「ええっ!それは、その、そこまで体を張っていただければ文句は出ないでしょうが。お姉様の負担が重すぎませんか?」
「大丈夫だ。私はもう教養の単位は全て取得している。自分の研究の時間が減るのは辛いが、今は研究に精を出すべき時じゃない。」
「でもさ、千条さん。あんたの派閥の運営はどうするの?あと、菫さんとの選挙協力はどうするのさ。」
「それも並行してやる。」
「あんたねえ。そんないっぺんに全部背負えるわけないじゃない。」
「姫宮さんは、一恋さんのいじめ問題さえ解決できれば、それで良い立場だろう?私のことなぞ、気にする必要はない。」

まあ、それはそうだ。余計なおせっかいというものであろう。仲間、というのなら話は別だが。千条様とお嬢様は仲間、というほどの間柄にはない。それでも、
「勘違いしないでよね。別にあんたの心配をしているわけじゃないのよ。ただ、一恋ちゃんの護衛がおろそかになったり、菫先輩の選挙に支障が出ないか心配なだけ。まあ、しょうがないからあたしも護衛を引き受けてあげる。そのほうが私も安心だし。あ、そこの猿娘も護衛の役を引き受けるよね?」
「当たり前だよ。お姉さまにばかり負担をかけさせられないし。ていうか、さりげなくあたしを愚弄する言葉を言うな。犬娘!」
「あなたたち!いい加減にしてくれよ。あなたたちといるほうが、逆に心労が溜まりそうだ。やはり私一人でいい。」
「では、ローテにしてはどうでしょう?曜日ごとに担当を変えればぐっと負担が減ると思いますよ?」
黙っていた私も意見してみた。

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「ふむ、負担は減る、がしかしだ。」
千条様は、私の提案にあまり乗り気ではないようだ。
「由納と姫宮さんは、一人で大丈夫か?」
「問題ないよ。このご時勢に姫宮家の家族に喧嘩を売るのは、自殺志願者か精神病患者のどちらかしかいないしぃ。まあ、そこの猿娘はちょっと心配だけどね。」

朝方、姫宮家の悪口を言えば、夕方、深海に没す。

と世間では影で言われている。そのくらい、姫宮家は恐れられているのだ。

「あたしだって、由納公国の娘です。由納公国から送られる各種奢侈品は帝都内の要人にとっては垂涎の的。要人とのプライベートなお付き合いが多いこの私に喧嘩をうる馬鹿は、虎の威を借る狐くらいです。」

その虎の威を借る狐とは、この場合お嬢様のことで間違いないと思う。しかし、幸いなことに当人は気がついていない。お嬢様は、あらそう?などど言いながらお茶をすすっている。

「あなたたちのそういう他力本願すぎる態度が心配なんだ。」
千条様は、鋭く突っ込んだ。
ああ、そういうことか。確かに、私もずっと気になっていました。いずれ自分の力だけでなんとかしなきゃいけない場面に遭遇したらパニックにならないだろうか。

「まあ、いざとなったら、」
お嬢様は不敵に笑い、高らかに宣言した。
「障害は、実力で排除するわ。」
「うん、それでいい。」
千条様もやっと納得したようだ。

かくして、千条様、姫宮様、由納様、の三者による一恋ちゃん護衛作戦が発動された。

「あ、作戦名は、Save the Cinderella! (シンデレラを救え!)でどうかな?」
「ださっ」
「聞こえてるんですけどぉ。お猿さーん?中傷は良くないって、幼い頃ジャングルでママに教わらなかったのかな?」
「だまれ、駄犬!犬小屋に帰れ!」
「おまえら、最後くらいはおとなしく終わっておけよ!」

・・・



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もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

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