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魔法銃

「来ていただいて嬉しいよ、ファイさん。もう来ないかと思ったわ。」

福山さんは笑顔で出迎えてくれたが目が笑っていない。怖い。素顔は美少女、中身は蛇みたいな。どうやら、私が待たせてしまったこの状況に機嫌を損ねているようだ。

「お約束ですから。」

失礼にならないギリギリのラインでそっけなく答える私。ていうか、約束の時間より10分も早く来ているのだから、私に落ち度はないはずだよ。とはいえ、一応怒ってないか確認してみよう。

「あの、怒ってますか?」
「冗談よ。」
笑顔120%で答える福山さん。福山さん検定初級の人ならば、この天使のような笑顔に騙され怒っていないと判断するだろう。だが、それは命取りだ。この笑顔、この妖艶な笑顔は危険だ。絶対冗談じゃない。本気で怒っている。福山さん検定黒帯の私にはわかる。

「ま、お互い忙しい立場ですし、早速本題に入らせていただくけど。できた?新型?」

新型、というのは新型魔法銃のことだ。先の戦争で使用した旧型魔法銃に改良を施したもの。

「ええ、きっと福山商会のお偉いさんも満足していただけるものと確信しております。」
また他国に言いがかりをつけて戦争を起こしてください。そして、私の開発した武器で大儲けすればいい。私の知ったことじゃない。

「そ、ま、期待しているわ。陸軍の要望は有効射程100m、装填時間10秒未満よ?」
「わかっていますって、今おみせしますから」

ちなみに旧型魔法銃の有効射程はおよそ50m。魔法を使う貴族は、ランクにもよるが、どんなにどんくさい子でも有効距離が100mを切ることはない。つまり、普通の兵隊が貴族兵に勝つためには、まず100mの壁は超えなければならない。また、旧型魔法銃の発射間隔はおよそ30秒。貴族の魔法の発動間隔は、どんなにどんくさい子でも10秒を超えることはありえない。この10秒の間隔も超えなければならない。

私は後ろの控え室に入り、旧型と新型、両方の銃を持ちあげた。重い。それぞれの銃の重さはおよそ4キロ。ケースの重量も加味されるので、二つ合わせて10キロは超えているな。こんなものを持って戦場を走り回るのは悪夢だ。私は、二つのケースを引きずるようにして、福山さんの待つ射撃場まで運ぶ。

「では、ケースから出します。」
私は、二つのケースからCIAという大きな英字が刻印された二丁の銃を取り出す。

「うーん、見たところ、旧型と大きな違いはないようだけど。」
福山さんは不安そうだ。商運がかかっているから過敏になっているのだろう。

sumire84_001.jpg

「まあ、実際に撃ってみればわかりますって。標的は用意されていますか?」
福山さんは、ちらっと目線を前方の標的に向けた。

・・・猿だ。

いや、まあね、装填される弾丸は催眠系の魔法だから無機物の標的じゃ確かに意味がない。でも、もっとも人間に近い生き物である猿を撃つのは少なからぬ抵抗を感じるのよ。

ウキキー。

猿が叫んでいる。まるで(撃つな!)と叫んでいるかのようだ。

「大丈夫よ。ファイさん。命中しても眠るだけだから。」

まあ、そうなんだけど。
「私の催眠弾は人間向けに調合されたものだから、猿にとって絶対に安全、とは断言できませんよ?」

「わかっているわ。でも、だからといって、人体実験するわけにはいかないでしょう?いいから、早く撃ちなさい。このあと少しでも仮眠をとりたいから。もう、私眠くてあくびが出てしまいそう。」
・・・どうやら、この生徒会副会長様にとっては猿の命運よりも午睡の方が大事なようだ。

私は腹ばいになって床に伏せた。お腹がつめいたい。福山さんは私の行動に怪訝そうな表情をしてみせた。
「伏射・・・?」
「ええ、私のような初心者の場合、この撃ち方が一番安定するんですよ。」

sumire85_001.jpg

実際、立って銃を構えるのは上級者向きなのよ。じゃあ、まず試射から。私は100m先に設置された的に狙いを定める。風もない地下室。余計なことは一切考えずに、引き金を引く。

爆音が響いた。いやもう、爆音としか言い様がない。耳当てしてないから、耳がかなり痛い。あとすごい衝撃が体にかかった。撃った刹那、体がしびれた。よかったー。立って撃ってたら、衝撃でひっくり返ってたかもしれない。

「ちょっと、ファイさん!なによこの異常な爆音!こんなものを一斉射撃したら耳がやられてしまうわよ!」
やはり、というか当然というべきか、文句を言われてしまった。
「耳栓をして対応できませんか?」
一応、言い逃れの文句は考えてきた。でも、
「訓練の場合は耳栓で対応してもいいけど。でも演習及び実戦で耳栓するなんてありえないよ?命令が聞き取れなくなるし、第一敵の気配が読めなくなる。」

ですよねー

案の定、私の言い逃れは通用しなかった。言ってることがいちいち正論過ぎて反論もできない。まあ、あれです。今後の反省材料ということで。
「分かりました。さらに改良してみますね。」
「どれくらいで改良できそう?」
うーん。
「サイレンサー、つまり発射音を軽減するための筒状の装置を銃身の先端に取り付ける、というアプローチなら一週間あれば試作できます。」
「じゃあ、2週間で試作して頂戴。今は焦って粗悪品を作る時期ではなく、時間をかけても高性能な商品を作る時期なのよ。戦争が終わったばかりだからね。」

そう、千条家との休戦協定は結ばれたばかり。本来であれば、いたずらに敵国を刺激するような武器の研究を加速化させる時期じゃない。

「でも、近い将来戦争が起こらないとするなら、本来、新型兵器も必要ないですよね?」
「まあね。だからこそ、実際に戦争が起こる起こらないは別にして、常に戦争が起こりそうな雰囲気を醸成しておくことが大事なのよ。武器の研究もそう。大規模軍事演習もそう。その他諸々の外交的な挑発もそう。うちのような武器商人は、そうじゃないと商売にならない。そして、あなたも。」
「ええ、確かに。恒久平和が実現されたら、私みたいな研究者はいらなくなるでしょうね。」
「戦争が終わってから・・・」
「はい?」
「戦争が終わってから、正直、福山商会は厳しい状況よ。いえ、うちだけじゃない、他のグループも。」
一見、哀れみをさそうシーンではある。

でも

千条家との戦争に勝つために、軍は福山家から大量の魔法銃を発注した。結果、福山商会は巨万の富を得たわけだ。しかし、軍のお金はもともと民衆から取り立てた税金である。今日食べる食費にも困るような人たちから絞り上げた税金である。これを食べなければ死んでしまうようなものにまでかけた税金が、私の銃を媒介して福山家の財布を潤していたのだ。しかも戦争という非常事態を言い訳にして、議会の審議を通さずに陛下に緊急勅令を出してもらって投入された税金が巡り巡って福山家の金庫をいっぱいにしたのだ。戦争が終わるまで、ずっと。

それを考えると、今になって多少今までのように稼げなくなったくらいで、福山家に同情する理由にはまるでならない。

ほかの商人も似たようなものである。みんな戦争をビジネスチャンスにして、吸血鬼のように庶民のお金を吸い上げていた。

「でもね、心配はいらないのよ?」
私の長い沈黙を、私の心の中で魔法銃の開発を続けることへの懐疑の念が生まれたためと受け取ったのか、福山さんは私を勇気づけるように言い放った。
「儲かる仕組みは私が必ず作るわ!だから、ファイさんは安心して研究開発を続けて頂戴。」
まあ、私の本分は研究開発。あまり余計なことは考えないほうがいいかもしれない。目の前の課題に集中して、成功を積み上げて、富が得られればそれでいい。いままでそうしてきたし、これからもそれでうまくいくだろう。

そのあとのことは、特段話すことはない。射撃間隔が10秒を超えたことにクレームをつけられたが、これは私が銃の素人であること、古参兵になれば10秒を切れると説明することで納得してもらった。標的に用意された猿はきちんとヒットさせ眠らせることに成功した。

・・・



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Catherinefx

Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

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もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

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