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私は不死身だ!

旧校舎のとある一室にて

「千条様、ただいま戻りました」
「おお、由納言美か。きゃさりん殿の様子はどうだった?」
「はい、きゃさりんさんの戦意は旺盛で降伏の心配は皆無でしょう・・・」
「それは重畳・・・だがその顔色から察するに何か気になることがあるようだな」
「はい、きゃさりんさんの衰弱が予想よりも激しいようです」
「ふむ、彼女の身の安全のためにも解決を急がねばな・・・」
「はい。実は最近彼女の衰弱を激しくするような事案が発生しました」
「詳しく聞かせてくれ」
「はい。本人曰く、きゃさりんさんの母上から生まれてはじめてのプレゼントが届いたようです」
「それが、問題になるのか」
「はい。印刷済みのコピー用紙の裏に手書きの文字が書かれた代物です」
「ううん? それ、プレゼントといえるのか?」
「言えないと思います。でも、本人は母上からのプレゼントと強弁してるんですよ」
「そ・・・そうか。で、どんな文字が書かれていたんだ?」
「はい。『千尋の谷』とだけ書かれていました」
「『千尋の谷』・・・どういう意味だ?」
「気になりましたので、元歴史研究会の部長に問い合わせました。旧世界のことわざで、獅子は子を深い谷に突き落とし、這い上がってきた子だけを我が子として育てる、という意味らしいです」
「なんと・・・事実上の降伏禁止命令だな・・・そのことは本人は知っているのか」
「はい。猛烈なプレッシャーを感じているようです」
「残酷だな」
「ですが、本人は大喜びです。生まれて初めて母上からプレゼントをもらったと。オリジナルは金庫で厳重に保管され、専門業者を呼んで、高級和紙のレプリカを作成し、筒に入れて、毎日抱いて寝ているようです」

Comic_04.jpg

「ちょっ、おま・・・それ」
「困惑するのも無理はありません。実際、周囲の子もドン引きしています。あまりにも不憫で泣き出す子も出る始末です」
「ううううむ・・・、確認だが、印刷済みのコピー用紙の裏にことわざが書かれた代物だろう?」
「はい」
「そんなもの、激務ってる最中に、部下から報告を受けた母上が、いやいやながらやっつけ仕事で書きなぐっただけじゃないか!」
「おっしゃるとおりです。でも、本人は、『この贈り物で、母上が一番愛している娘はこの私だと証明された!今日は人生最良の日だわ!!!そう思わなくて?みなさん!』と狂喜乱舞する有様で・・・」
「うううん・・・?そうか・・・うむむむむ・・・」
「今、きゃさりんさんの周囲はお通夜のような暗い雰囲気です。哀れすぎてみんな見ていられないんですよ。でも、本人だけはおおはしゃぎなんです。そのギャップが、なんとも形容しがたい気分にさせられるんです」

「そうか・・・もともときゃさりん殿はちょっとあれな性格だとは思っていたが、断食の影響であれな部分が増幅してでてしまっている、ということか」
「そうですね。もともと性格的にアンバランスな部分が気になってましたが、心身の衰弱とともにそのバランスがますますあれな方向に崩れているのでしょう」
「このままではますいな、首尾よく断食を終えられたとしても、半生半狂の人生を送ることになりかねん」
「ですね・・・。正気でいられる時間ももちろんあるのですが、最近ではあれな時間のほうが長くなっているようです」
「事態は急を要するな。よし、私自身この目でキャサリン殿の様態を把握したい。由納言美、取り次ぎを頼む!」
「分かりました。千条様」

・・・
・・・ ・・・

ふう、急がねば・・・。

私、姫宮きゃさりんはかつてない焦燥感に襲われていた。

みんな戦場で命のやり取りをしているのだから、私もみんなのためにできることをしなければ。


北伐に出征中の貴族たち・・・お国のために命をかけて戦っている私の仲間、世が世ならば枢密学校で姫宮派閥を構成したであろう貴族の子弟たちの権益が脅かされている。

母上の縁者から受けた通報によると、北伐の講和条約で無関税自由貿易が締結される動きがあるという。つまり、戦争終了後、関税のかからない安価な穀物が大量に帝国内に流入するという。


大土地所有者であり、農作物を換金して糊口をしのいでいる中小貴族の生活が破壊されてしまう。

「なんたることなの!これじゃあ、貴族は自分たちの生活を破壊するために命がけで戦ったことになるじゃない!」

こんなことを看過したら、姫宮家は貴族から信頼を失ってしまう。
貴族の中で孤立しては、姫宮家の栄光など絵に描いた餅!

「母上におかれましては、今一度熟慮を重ねた上、死力を尽くし、お国のために鬼神のごとき活躍をして戦っている救国の志士たちを失望させる動きに同調することがないように重ねてお願い申し上げます・・・と」

ふう・・・こんなものか。
私は今しがた書いたばかりのお手紙を何度も読み返し封筒に入れた。

あとは、そうだな、我が姉、姫宮家第二プリンセスの姫宮一姫にも一筆したためたほうがよいだろう。
彼女は講和会議の帝国側代表者なのだから。

「お味方勝利の暁には、多額の賠償金と割譲した領土を貴族たちに分配すると約束なさったではありませんか。そのお約束はいつ果たされるのでしょうか?自由貿易推進は貴族の生活を破壊する明確な裏切り行為です。たしかに、魔法と科学の力で大量生産された商品を無関税で敵国に流せば、帝国は有史以来未曾有の繁栄を遂げられるという姉上のお考えも理解はできます。地主貴族ではなく金融貴族としてすでに衣替えを果たした姫宮家も一時的には繁栄するでしょう。大量生産される商品のほとんどが姫宮家の影響下にあるのですから。商品を輸送するための鉄道への投資も全て姫宮が担っているのですから。私たちは、利払いを受け取るだけでよいのです。ですが、それでは命を懸けて戦った貴族たちの生活はどうなるでしょうか?戦争終了後、穀物価格が暴落すれば、地主貴族が没落するのは火を見るよりも明らかではないですか。姫宮家のみが独り勝ちをし、他の貴族が凋落するという結果になれば、遠からず姫宮は貴族から孤立し滅亡の道をたどるは必定。姉上におかれましては、姫宮家が代々築き上げてきた貴族からの信頼を一朝にして瓦解せしむる軽挙に組することがないよう、重ね重ねお願い申し曲げます」

ふうう・・・。
天を仰ぐ。

蛍光灯が二重に見える。

極度の空腹とストレス。
自分の体が自分のものではないような感じさえする。

「お嬢様! 千条さまと結納言美さまがお見えです!」
「憂、失礼のないようにお通ししなさい!」


それでも、私は私の現実にも向き合わなければならない。
それが、大貴族の娘として生まれたものの使命なのだから。

「よっ! われらがヒロイン様! 元気してたー?」
初発の挨拶は結納言美からだった。まあ、彼女は千条さまを慕っているし
家柄的にも下だから、挨拶の順番は妥当なところか。
「ええ、おかげさまで。結納言美さんや結納九連枝のみなさんにはほんとうによくしていただいて、とても気持ちのよい毎日を過ごさせていただいていますわ」
「それは何よりだ」
「これは!?千条様じきじきのご訪問とは恐れ入ります」
少し大げさに驚いてあげたほうが相手も気分がよいだろう。やれやれ、全く気をつかうわ。私はバネ仕掛けのびっくり箱みたいにびよーんと椅子から立ち上がった。
「あ、いや。どうかそのままで!お体に障る。腰掛けたままで」
「そういうわけには参りません。姫宮家第三プリンセスにふさわしいおもてなしをさせていただきたく存じますわ。たとえ断食の身であろうとも」
「いやいや、どうかそのままで・・・」
(ちょっと、由納言美!いたって正気じゃないか?コレ)
(でも、不気味なぐらいに愛想よすぎですよね?千条様)
(確かに、気品があるというか。物腰柔らかというか。本物のプリンセスみたいだ)
(一応、本物ですよ?)

なんかごちゃごちゃ言ってるな。なんとぶしつけな。
「ふふ・・・お仲がよろしいのですね。」
クスクスと故意に二人の危険な仲を揶揄して上品に笑ってみせる私。
つまり、聞こえてるんだよおまえら、と牽制して見せたわけだ。

「でさあ、あんたさあ、最近ちょっとおかしくなってるような気がするんだけどさあ。いや、もともとおかしいとは思ってたけど・・・なんというか、自分の世界に入り過ぎてて怖いっつーかなんていうか・・・」
「あらあ、由納言美さん。面白いことを言うのね、フフ・・・」
私は鼻のように笑った。あ、間違えた、花のように笑った。

「今だってさあ、あんたそんな上品なキャラじゃなかったじゃん?」
「三日もあれば女は変わるのよ」
「まあ、いいけどさあ・・・なんか気になるな」
「どうしたの?難しい顔をして。もしかしてお腹がすいてらっしゃるの?そこのお茶菓子をどうぞ遠慮なくつまんでくださいね」

「え?茶菓子?つーか。どこに?」
「由納言美さんは、ほんとうに面白いことをおっしゃるのね。ふふふ、お皿の上にクッキーが山盛りにしてあるじゃない」
「は?クッキー・・・?どこにあるのよ」

(言美!話をあわせたほうがいいかもしれん。面倒なことになりそうだ)
(どういうことですか、千条様)
(現実検討能力が著しく落ちているようだ。ここで、私たちときゃさりん殿との現実認識に著しい差異があることに気づかれると一気に症状が悪化するかもしれん)
(ああ、なるほど・・・やはり断食の影響は甚大ですね)

「ねえ、お二人方。また内緒話ですの?私、そういうのあまり好きではありませんわ」
「ああ・・・すまん。キャサリン殿。ちょっと、えと、その・・・あまりにも珍しいクッキーなのでお持ち帰りしたいと思ってしまってな。とはいえ、あまりにも恥ずかしいお話なのでどうしようかと言美と相談していたんだ」
「まあ、さすが千条さん。お目が高い。どうせ断食中の私には不要なもの。どうぞ遠慮なく持って帰ってください。憂!」

眠い目をこすりながら部屋に入ってくる侍女。ていうかさ、身重の私でさえがんばって客人の応対をしているんだから、もうちょっとプロ意識を見せなさいよね!

「はい、お呼びですか?きゃさりんお嬢様」
「そこに置いてるクッキーを全部客人に差し上げなさい!」
「は?クッキー??どこにあるんですか?」
「いや、そういうボケは今いらないから。まじめに働いて頂戴!」
「えっと・・・あの・・・きゃさりんお嬢様のお申し付けに従いお部屋のどこにも食べ物は置いていないのですが」
「何を言っているのよ!あなたは!!!いいからさっさと目の前のクッキーを客人に差し上げなさい!!」
「ああ、ちょっとタイム! まず、クッキーの話から離れよう」
「由納言美さんは黙ってていただけますか!今、無礼な侍女に教育を施さなきゃいけなくなったんで!!」

私はくるりと振り返り、抗命する不遜な侍女に対峙する。無駄に背が高いから、説教するときでも見上げないといけないのが地味に腹が立つ。いや、私の背が低すぎるせいじゃないよ。ほんとだよ?
「つか、あんたさ。まじ、うざいんですケドぉ」
「お嬢様、ですが、クッキーなどどこにもありません!」
「ここに、あるでしょうがっ!」

私は、くわっと目を見開き、クッキーが置いてあるテーブルを激しくたたいた。衝撃でクッキーの山がなだれを起こす。

「え、ええ~?」

わざとらしく困惑する侍女、いらっとくるわねえ。ちょっと姉上や母上に気に入られているからって、勘違いしちゃってさ。
「今日という今日は、誰があなたのご主人様なのか、その身体にじっくりねっとり教え込んであげるから覚悟なさい!」
「きゃさりん殿!どうか落ち着いて、私が変なわがままを言い出したのが悪かったのだ!」
「あんた、ちょっとやめなさい。無駄にエロい発言で憂さんドン引きしてんじゃん!」

「どうして、あなたたち二人まで憂の味方をするのよ!」
刹那!私の目の裏で何かが白く爆発した。白く爆ぜた!!

Comic_05.jpg

「落ち着いてくれ!キャサリン殿!私たちはみんなきゃさりん殿の味方だ!」
「そうよ!私たちは敵じゃないよ!」

(くくく・・・愚かな女)

「何!?」
「ちょ!怖いよあんた」
「言美!距離をとれ!きゃさりん殿の様子がおかしい」

(本当は、母上からは1滴たりとも愛されてはいないのに・・・7)
「聞き捨てならない発言ね!訂正なさい!!」
「あ・・あああ・・・あたし何も言ってないよ!」
「言美下がれ!憂殿!!旧校舎に残っている夕納九連枝ならびに衣川さんをお連れ申し上げて欲しい!」
「はい!ただちに」

(まだ、その筒大事に持ってるんだ)
「おのれ!私を愚弄するのは誰だ!魚おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
バシャン!バシャン!!と食器が割れる音が響く!ドスンと本棚が倒れる!!椅子、机、ソファ、テーブルがダンスを始める。私の魔力が暴走を始める。まるで大震災だね。

「姫宮殿!」
とか叫ぶ声が聞こえた・・・と思ったときにはすでに距離を詰められていた。
いのししの突進かっつーの!
てか、痛い痛い、寝技に持ち込まないで!

「何をするのよ! 私を姫宮家第三プリンセスと知っての狼藉よね!許されると思ってるの!?」
「お詫びはあとでいくらでもする!だが、今は落ち着いてくれ!!」
「どきなさい!何人たりとも姫宮の尊厳を冒すことは許さないわ!」

じたばたもがくが、どうしても脱出できない。
「無礼者! 憂!!!法務大臣を呼びなさい! 正式に抗議してやるうううううううううう!」
「キャサリンお嬢様、ご乱心!!!!由納九連枝の方々ならびに衣川様、おであいなさいませ!!!」
「憂!?誰がご乱心だ!!!」

もうなんなのよ、地面に押し倒されて体は痛いし、乱心者扱いされるし!
おなかへっていらいらするし!!

「重いっつーの!あんた!!」
私は、魔力を体に充填させ、千条さんの体をはねつけようとするが、考えることは相手も同じ。
しかも私は断食の身なので魔力の充填に時間が掛かる。

ならば!!

どばしゃあ!


私は、自分ののどの血管を一部損壊させ吐血した。
「!?」
相手は一瞬ひるむ。その隙に体を跳ね除けた!

すかさず距離をとり、不埒ものと対峙する!

「キャサリン殿! 出血しているぞ!」
はあ、はあ、どばどば・・・血が流れる!
ちと、魔力の加減を間違えたようだ。
大量出血だな。

「ふん! 私を誰だと思ってるの! たとえ、全ての血が抜き取られようと、私は生きながらえることができるのよ」
「な・・・何をいっているんだ」
信じられない物をみて目を満月のように開く千条さん。
そのそばでは、驚愕のあまり目を見開いたまま気絶する由納言美がいた。

「なぜなら、私は神に愛されているからよ!神に愛されている私は絶対に死なないの!目に焼き付けておきなさい!これが、選帝侯最高クラスの実力よおおおおおおおおおおお」

私は体中にみなぎり、出口を求めて勢いよく飛び跳ねる魔力を四方に拡散させた!

胴像が真っ二つに割れた!
机が砕けた!
バシャン!とシャンデリアが粉砕された!!

Comic_07.jpg

ああ、みなぎる! みなぎってきたーーーーーーーーーーーー!
「千条さま! 憂です!みなさんをお連れ申し上げました!」
「ちょ! 何やってるんですか、きゃさりん様!! 何、大量出血しているんですか!?」
「あああ!! お嬢! 言美お嬢がお怪我を!」
「なんだってェー!!」
「お膝だ!お膝にシャンデリアの破片が刺さって出血なさっている!」
「みんな! お嬢を守れ! お嬢を守りながら撤退するぞ!」
「ばかな! 千条様ときゃさりん様をそのままにしていくおつもりか!」

ふふふ・・・みんな私の魔力の前に怯んでいるわね。
つ!? ごぼっつ!血のにおいが口の中で広がってきた!

「プリンセスきゃさりん吐血!! 繰り返す、プリンセスきゃさりん吐血!!」
「よしっ!チャンスだっ!!確保おおおおおっ!!」
「おうううううううっ!!」

おううううっじゃないわよ、ごほっ
手負いの珍獣、じゃなかった、愛くるしい手負いの子ウサギに、集団で襲い掛かるハイエナかっつーのっ!

重い、苦しい!息できないですからっ!
のど圧迫しないで!!

「ごぼっ!!!!」
「げっ、きもっ!!!返り血!?」
私は、のどを圧迫されさらに吐血した。

ていうか、きもっていうな!
死んだら絶対に呪ってやるわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
・・・



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プロフィール

Catherinefx

Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

とある乙女の裁量決済(ロスカット)
http://catherine2010.blog119.fc2.com/

もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

最新記事も上記ブログで読むことができます。

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