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旧校舎

「時にお嬢様、一恋様はその後どうなりましたか?」

放課後の正門で、お嬢様を出迎える。今日は帰宅までの同行を命じられているのだ。

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「ああ・・・。記憶喪失、という説明で納得しているみたいだよ。」
「そうですか。それで菫先輩とはどうなりましたか?」
「さあねえ。」

まるで興味がないようだ。
「あ、でも。男爵様は恋ちゃんのパソコンを処分して新しいものを与えたそうよ。」
「それって、」
「菫先輩についての記録を完全に抹消するためだろうね。ふぁああ ねむい(。-_-。)」

学園沿いの道を少し進み横断歩道を渡る。閑静な場所で、車の通りが少ないので信号はない。

「ううん。菫先輩は大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫なわけないじゃなーい。だから、これから先輩と話し合いするのよ。納得してもらうために」
「納得するでしょうか」
「大丈夫よ。とても聡明な人だもの。問題ないよ。」

だったら、私が同行を命じられる理由はないはずだ。明らかに、私の支援を期待してのことだろう。

今後の展開に思い悩んでいるうちに、大きな日本式の庭園の入口まで来てしまった。庭園は一般解放されていて、お昼時には学生たちが昼食をとる。景色が素晴らしく風が心地よい。岩、石、砂利、小山、池、などが絶妙な位置に配置されていて、山の渓流から海に流れる大河までをかわいらしく表現しているセンスの良い公園だ。その奥の敷地は旧校舎となり、一般の人の立ち入りは禁止。旧校舎は、純和風の2階建て。横に長い造りだ。かなり年季の入った建物で、お嬢様は、この校舎の一階の左隅の部屋に自室を構えている。もちろん元々教室であった場所だ。これも、貴族の姉弟の特権である。実は、旧校舎の運営は貴族OBの寄付金によって運営されているのだ。

「すみません。姫宮キャサリンです。姫宮家の者一名が同伴します。名は憂。一般学生はいません。後で、2年生の四十園菫先輩と面会する予定です。」
「どうぞ、お入りください。」

校舎入口左側面に設置されている小部屋が管理人室になっていて、60は確実に過ぎていると思われる老婦が受付をしてくれた。土足厳禁なのでここでお嬢様は上履きに、私は来客用のスリッパをはく。廊下の方は、古い建物だけあって歩くとキシキシ音がする。あと、意外に人通りが多い。身分のある貴族は、数人の学生の付き人を従えるのがステータスになっているからだ。昔は、従える付き人の数は、その貴族の人望をそのまま映していたようだ。本来ならば、貴族最上位の姫宮家のご息女に学生の付き人がいないのは、不自然だ。これはひとえに、お嬢様の、まあこういっては差し支えが出るが変わった性格の結果だ。母上様も、たいそうお気になされていたので、私としてもそろそろ対策を講じなければならない。

「あら、姫宮様ではありませんか?」
「・・・ども」

せっかく知り合いと思しき生徒から挨拶をされたのに平坦な反応である。頭に、蝶の飾り物をつけている。あと、体全体からいい匂いがする。本当にいい匂いだ。

「そちらの方は、フレンドの方ですか?」
「・・・違う。」

うつむいたまま言葉短めに言葉を返すキャサリン様。不機嫌そうにイライラしている。あ、フレンドというのは貴族の付き人の意味だよ。今は封建的な言葉使いはしないんだった。私も意識を改めないと。

「じゃあ、家の方だね?いいなー。私も、メイドさん欲しいなー」
片手に顎を当てながら太陽のような笑顔でお嬢様をまっすぐ見つめる女の子。こちらの気分も暖かくなる、そんな笑顔。いちいち仕草がかわいいなーと私は思うのだがお嬢様は苦手らしい。

「私、もう行く」
「あ、うん。ごめんね、引き止めちゃって。」

キャサリンお嬢様だけでなく、なんと私にまで丁寧なお辞儀をして去っていく黒髪美少女。よくできた子だな。うんうん、お姉さんは関心だゾ。それにひきかえ、お嬢様は話しかけられたのがさも不快でたまらんといった態度でづかづか歩いていく。う~ん、これでは付き人、いや、フレンドの獲得など夢のまた夢だ。本当になんとかしないと。

「お嬢様。せっかく気を効かせていただいたのに、もったいないですよ?」
「べっつに~。平民風情に捧げる愛想なんてないわ~」
はん、と小バカにしたように吐き捨てるお嬢様。

「そうか。では、同じ貴族同士ではどうなのだ? 姫宮さん。私と仲良くする気はあるのか?」

突然、空間を切り裂くような声を掛けられた。凛としてよく通る声だ。見上げてみると、体操服を着た黒髪ポニーテールの女の子だ。同じような体操服を着たたくさんのフレンドとおばしき子も引き連れている。その数は両手の指では全然足りない。

「せ、千条さん」

ビクッと体を震わせ、蚊の泣くような浴びえた声で言葉を搾り出すキャサリンお嬢様。流石のお嬢様も身分のある生徒は邪険にできない。会いたくなかった人に会ってしまったような様子でやや動揺している。

「そちらの人は、誰だ?姫宮さんにもついにフレンドができたのか。」
「いえ、私は姫宮の家の者です。」
お嬢様が答える前に私が答える。
「ほう、ご家来衆の方か。はじめまして。私は千条紫炎。千条公爵家の娘であったが、故あってこの度、陛下より候爵家の立ち上げを命じられた。以後よしなに頼む。」
「それはおめでとうございます。」
刹那、場の空気が凍りついた。どうやら失言であったらしい。
「ちょっと、あんた人の気持ち踏みにじるのがそんなに楽しいの?紫炎様は、実家から切り離されたんだよ?」
取り巻きの一味から猛然と抗議されてしまった。どうやら、千条様は実家との縁を切らされたらしい。
「よいよい。もとより候爵家の立ち上げは私が承諾したことだ。その結果、何が起ころうとも、責めは私が負わねばならん。ところで、そなた、名はなんという?」

「・・・憂です」
「ほう、憂とな。」

嫌な沈黙の時間が続いた。苦痛だ。先に沈黙の扉を破ったのは千条の傍に控えていたフレンドだった。
「憂様。千条様はフルネームを名乗ったのですよ?」
微笑を絶やさない顔に丁寧な口調。だが、有無を言わさぬ覇気が感じられる。彼女のインバーバル言語をバーバル言語に翻訳すると「無礼でしょう?フルネームを名乗らないのは。」といった感じか。

「失礼いたしました。私は、ただの憂です。」

瞬間、場の空気の温度が2度くらい下がった。『この子、姓を持たない出身成分の低い子なのかな。』『でも、只野という姓かもしれないわよ。』『あら、知らないの。出身成分Cの子は「ただのなにがし」で身分をごまかすのよ?』女の子特有の甘い飴玉みたいなささやき声が廊下に落ちては転がり落ちては転がっていく。だが、内容がいちいち不快だ。私の処世術として、このような場面では確かに『ただの憂』と答えてごまかすことにしている。大抵の良識ある人は、気を使ってそれ以上の追求はしないからだ。

「ほう。」

若干目を細めながら、珍しいものでも見るかのようにお嬢様と私を交互に見つめる千条。

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「姫宮の家は、身分の貴賎に関わりなく、誰とでも仲良くする家風のようだな。我が千条家も、貧民の方々の救済には普段から心を尽くしていると自負していた。実際、私財を投げうち公園で炊き出しを行い、また我が家の使用人として雇うことで彼らが少しでも健やかな生活を送れるように微力ながら支援してきたつもりだ。だが、学校での世話までさせるという発想はなかった。これは感服した。」

誰とでも仲良くしていたら、フレンドが一人もいないわけないだろう。第一、お嬢様の我侭な性格は学園でも有名であり、好き好んで身分の卑しい貧民をそばにはべらせるわけがない。痛烈な皮肉である。

「だが、この旧校舎を代表する立場として一言言わせてもらおう。本校者は、出身成分Cの方が入館する場合、白い腕輪を両手足に身につけていただくという決まりがある。」
「別に、明文化されたルールじゃないでしょう?」
お嬢様は、キッっと睨んで反論する。
「確かに明文化されていない。いや、する必要がないのだ。ここに部屋を構える貴族の姉弟はみな良識をわきまえているからな。」
「う・・・。」
心臓がドキっとした。
冗談じゃない。足かせをはめるなんてまるで囚人みたいだ。それに、白い腕輪はホスピスに入院している患者が自らの病状を暗示するために装着するものだ。断じて受け入れられない。
「あんたねえ。私を貴族院議長、姫宮優子の家族と知っての狼藉と受け取っていいのかしら? 」
「身分のある貴族の子弟だから、私も下手に出ているのだ。でなければ、遠慮なくその女をつまみ出しているところだ。」
え、この態度で下手なの? というか私名前を名乗ったのに「その女」に格下げされてるし。
お嬢様は、ギリギリと歯噛みするお嬢様。両者のあいだに緊張が走る。刹那、場にざわめきが起こった。なんとお嬢様の手の上には空気が集まっているいるではないか。どうやら、転移魔法を使ったようだ。
「ほう面白い。この人数を相手に喧嘩がしたいのか?」
「おやめくださいませ。お嬢様。私は気にしていません。」
私は、両者のあいだに割って入った。
「どきなさい!憂。これはあなただけの問題じゃないわ。姫宮の家の体面を守るための戦いよ。」
「じゃあ、せいぜい頑張ってその体面とやらを守ってもらいましょうかー。」
だから、そこの派閥メンバーの子も煽るのはやめてよ。
「ああいい、お前達は下がってなさい。」
ずずずいっと千条だけが前に出る。手に武器は持っていない。どうやら、丸腰でも勝てると思っているらしい。千条様の魔法の特徴も理解していない現段階で戦うのはまずい。
このままだとお嬢様はますます恥をかく結果になるかもしれない。
「千条様。どうか、お怒りをお沈めください。決まりを知らなかった私が悪いのです。」
私は、千条の前で土下座して許しを請うた。
「私とて争いは好まん。だが、座して辱めを受ける趣味もない。そなたの主人はやる気なようだが?」
「お嬢様・・・どうかどうかこの場はお引きください。」
「ぐ・・・」

体力差を考えれば、お嬢様に勝ち目なし。かといって魔法での戦いにしてしまうとことが大きくなりすぎる。そのことはお嬢様も十分に理解しているはず。だが救いの手は思わぬ方から差し伸べられた。
「まあいい。そもそも、旧校舎での私闘は厳禁だからな。大野!」
「はい。」
大野と呼ばれた子が前に出た。
「旧校舎の不文律について、受付に伝えておくように。勘違いをした不心得者のおかげで、部外者がはびこるようになっては旧校舎を預かる者としては看過できん。」
「畏まりました。」

どうやら千条様にとっても問題を大きくすることは得策ではないと判断したのだろう。千条の方から引いてくれた。

それっきり、千条は私たち主従に全ての関心を失ったかのように、二度と振り返らずに去っていった。
私たちは立ち尽くすより他に仕方がなかった。

部屋に入った私たちの間には重苦しい空気が立ち込めていた。窒息していまいそうだ。お嬢様は部屋に入るなりソファに横になってしまった。頭からタオルをかぶってお休みになられているのでその表情を伺い知ることはできない。一見、くつろいでいるように見えるが、心中は穏やかではないだろう。何か声をかけたほうがいいのか悩むところだが、そっとしておいたほうがいいと思った。私は、菫先輩をおもてなしするためのお茶菓子とお茶の用意にとりかかった。

先程のような、嫌がらせを日常生活で受けているのならば、かなり辛いはずだ。千条のような大貴族を牽制するためにも姫宮派閥のようなものを早急にこしらえたほうがいいのかもしれない。でも、私が学園内をうろついて勧誘して回るわけにもいかないし。う~ん、お嬢様がどう考えているのか今夜にも尋ねないと。

20分ほど沈黙の時間が流れたあと、突然電話がなった。菫先輩が着たという電話を受付の老婆がしてくれたのだ。私がそのことをお嬢様に報告すると、お嬢様は起き上がり居住まいを正した。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。」

しばらくして、コンコンとドアをノックする音がした。いよいよか。
「どうぞ、お入りください。」
開かれた扉の前には、王子様がいた。さすがにかっこいいな。サラサラショートに涼やかな目。ほんの少しだけやつれている感じがするが、それを感じさせない立ち振る舞い。

「はじめまして、でいいのかな。四十園菫です。」
「はじめまして、お目にかかれて嬉しいです。私は、姫宮公爵家の娘、姫宮キャサリンです。」

深々とお辞儀をするキャサリン様と私。流石に行儀作法の関してはこちらも負けていない。

「姫宮さん。今日はお招き頂きありがとう。」
「お茶の用意が整っております。まずはおくつろぎください。」

菫先輩とお嬢様はソファに腰掛け、私は3人分のお茶を淹れる。テーブルには様々な種類のクッキーが並べられている。色で言えば10種類以上はある。味?サクッとして美味しいよ。香ばしい香りも食欲をそそる一品。

「菫先輩。先輩も忙しいと思うので早速本題に入りますが、今日は一恋ちゃんのことでどうしても伝えたいことがあるのですよ。」
「うん。」

それから、お嬢様は、一連の経緯についてかいつまんで説明した。

「私が一恋ちゃんと菫先輩に相談をする機会を与えなかったのには理由があります。一恋ちゃんの安全のためです。彼女がまた先輩のために気を回し命を削ることを阻止する必要があったのです。」
「・・・」
「先輩からすれば、納得いかないことかもしれません。ですが、私も男爵様も、一恋ちゃんの命を最優先すべきであると判断したのです。ですから、先輩と一恋ちゃんとの面会は許しませんでした。」

一息に言い切って、深々と頭を下げるお嬢様。
まあ、繰り返しになるけど、一恋さんの命と一恋さんの恋を潰す両者の利害が一致しての行動だったわけだが。

「そうだったのですか。」
「恨まれても仕方のないことをしたと思います。」
「いえ、私が姫宮さんの立場でも同じことをしたと思います。貴方の行動は私も正しいと思います。ただ、」
「ただ?」
「私はもう恋を支えてやれないのが悔しい。恋はクラス内でも孤立していて、私と付き合うようになってからは露骨ないやがらせも受けるようになったみたいなんだ。」

いわゆる嫉妬か。王子様を独り占めされたら、周りの子はそれは悔しいだろう。

「恋は、私が恋を好きでいてくれるから、頑張れると言ってくれたんだ。」
「・・・」
「私の方から恋に近づくのもダメなんだろう?」
「はい。また同じことにならない保証がない限りダメです。厳しいことを言うようですが、魔法を使う者は自らの欲望を制御しないといけないのですよ。私たちは日々色々な欲望にまみれて生活していますでしょう?疲れを感じなくなりたい。好きな人の気持ちが知りたい。嫌な記憶を消したい。いろいろです。でもその度にいちいち魔法を使っていては、身が持たなくなるのです。魔法はただではありませんから。」
「なるほど」
「また、上から目線の発言を許して欲しいですが、男爵レベルの方は、持てる力が非常に限られているのでより強い自制心が必要なのですよ。」

男爵様は、娘の誕生日に娘の希望を叶えるために一生懸命になった。でも、心読みを専門とする一(ひとつい)の家では、専門外の魔法に手を出すわけには行かない。だから、恥を忍んでキャサリン様に頼った。本当は、自分のチカラで娘の目の前でコーラを復活させたかっただろう。

「一恋ちゃんは、そう言う意味で、未熟でしたと思うです。」
「でも、彼女が苦しんでいるのに何もしてやれないなんて。やり方は間違っていたかもしれないけど、私は恋からたくさんの元気をもらっていたんだ。せめて、何かしたい。何か。いじめられている恋をみても何もできないなんて。」
「先輩。私、一恋ちゃんを私のフレンドに勧誘してみようと思うのですよ。」
「え?」
「一恋ちゃんが私のフレンドになれば、彼女は安全です。一恋ちゃんをいじめることは私に喧嘩を売ることと同じことになるので。」

千条のフレンド達は、キャサリン様にかなり露骨な影口を叩いていたが、あれは千条の後ろ盾があってこその発言である。普通の生徒は、まずお嬢様に喧嘩など売らない。また、出身成分の高い一恋がお嬢様の保護下に入れば周りの見る目が変わり、彼女たちのお嬢様への嫌がらせも減るかもしれない。

姫宮-一恋の両者にとって得な取引と言えなくもない。

「でも、キャサリンさんがそこまでする理由はあるのですか。」
「実は、彼女に負い目があるのですよ。今は言えませんが。」

キャサリン様も嫉妬して無意識のうちに恋を呪ってしまった。その結果、恋の病状を悪化させた。あげく、一恋の恋を潰した。しかも、その真相を誰にも懺悔していない。その罪は確かに軽くない。

「また、恋ちゃんへの負い目は別として、その、私も王子様が好きなのですよ。」
耳をリンゴのように真っ赤にして、話の勢いで告白してしまったキャサリンお嬢様。

「え!?」
驚く菫先輩。

「ですからっ、先輩のために私もなにかしたいのですっ!」
「えっと、その、友達ののりとしての好きなのかな?」
「いえ、違います。恋ちゃんが先輩を好きになったのと同じ好きです。」
「気持ちはとても嬉しいよ。ありがとう。でも、今は恋のことで頭がいっぱいなんだ。ごめんな?」

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告白を受けた直後こそ驚きを隠せなかった菫先輩であったが、すぐに平静を取り戻した。やはり人気者だけあって、人に好意を向けられるのには慣れているようだ。

「先輩、それでですね。そのぉ。恋ちゃんのことで気になることがあったらすぐに連絡を取り合えるようにしたいのでメアド交換しませんか?」
「もちろん。大歓迎だ。」

ふむ。ついにメアドゲットした。これで、お嬢様の恋のすごろくも1マスくらいは進んだといえるかな?

ピッっと赤外線通信?(私はこういうことには疎い)でメアドの交換を終える二人。

「実を言うと、この旧校舎は近づきづらかったんだ。だからこうして携帯でやりとりできるのはありがたいよ」
えっと、どういうことだろう。ちょっと気になったので質問してみる。

「それは、どういうことですか?」
「実は、フレンドへの勧誘がしつこくてさ」
「憂、菫先輩は人気者でしょう? そんな人気者をフレンドにさせればその派閥には泊がつくのよ。あと、あこがれの菫先輩がいるのなら、自分もフレンドになろうと考えるやからも大勢いるだろうしね。」

派閥の威光が増し、派閥の数も増える。いいことづくしだ。

「でも、ここだけの話だけど、私は、一恋や姫宮さんには申し訳ないけど、あまり権力志向の強い貴族の人とは仲良くしたくないんだ。」
「生理的に受け付けないのですか?そういうタイプが。」
「そんなことはないけど、私、来年度の生徒会選挙に立候補するつもりなんだ。」
「あああ~ なるほど。」

なるほど~ と私も訳知り顔で相槌を打ちたかったけど、わけがわからないのできょとんとしてしまった。
「えと、どういうことですか?」
「わからないの? もしも、先輩が貴族の大派閥の支援を受けて生徒会長になってしまったら、学校の予算や人事を決めるとき、派閥の意向を無視できなくなるわ。昔は、こういうの多くて問題になったそうよ。」
「情けない話だけど、一昔前は、派閥どうしで不毛な対立を繰り返した挙句、大した実績のない部活に多額の予算が計上されたり、明らかに問題のある生徒に重要な役職をやらせたり、学食の経営を派閥の貴族の家長が経営する会社に譲り渡したり、やりたい放題だったみたい。もちろん、こんなのは私の目指す学校とはまるで違うよ姿だよ。私たちの学校は、人材や資金に恵まれ、それに魔法まで使える貴族がいる。だから、学生同士で足の引っ張り合いを行うのではなく、みんなで協力してもっと生産的な活動をするべきだと思うんだ。今のままじゃ、宝の持ち腐れだ。あまりにもバカバカしくてもったいないよ。」

普段の余裕のある態度ではなくかなり語気を強めて語る菫先輩。すすす、とお茶をすする私。お嬢様の通う中学校は希望をすれば大学院の博士課程までただ同然の授業料で通うことができる。それは、社会に有意な人材を多数輩出してきた実績があるからだ。故に、金とブランドの力にものを言わせてクラブ活動も部活動も委員会活動も自分たちのやりたいように行うことができる。

「豊かだからこそ人が争う土壌が生まれるのよ。」

これは、お嬢様のお言葉。この学校にもいろいろあるんだなあ。私も、ホームレスの頃は、豊かな生活に盲目的に憧れていた。みんなが豊かになれば、みんなの不満はなくなり、争いもなくなると思っていた。でも、違うのかもしれない。

その後、菫先輩とお嬢様と私とで、今後の一恋との関わり方についての具体的な話し合いが持たれた。その結果、菫先輩とお嬢様は毎日インターネットを通じて連絡を取り合うことことになった。

結果だけ見ると、今日のこの日から、お嬢様の恋愛は成就に向かって歩みを始めたといってもいいかもしれない。その歩の距離は、控えめに言っても、地球から月ほどもあると思うけど。

・・・



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Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

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もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

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