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取引

千条は思い出したかのように、
「菫さん。私から一つ提案がある。」
「うかがいましょう。」
「今回のいじめ問題でも明らかだが、我が学園には心の病んだ人間が多い。事実、自傷・自殺未遂・性的な乱れ・拒食症・鬱・心身症・パニック障害など、精神疾病にり患する生徒が一般社会と比較しても格段に多い。いじめられる生徒を守るのは当然だがいじめる子も守らなければならない大事な生徒だ。」
「おっしゃる通りです。いじめる側も、学園のあまりにも合理的すぎるシステムが重圧となり、攻撃性のはけ口が必要になったのかもしれません。」
後で聞いた話だが、お嬢様の学園は、個々人の才能を開花させることに専念するのが売りだが、裏を返すとそれとは関係のない行事、例えば、学園祭・体育祭・修学旅行などはもちろん、ちょっとしたレクリエーション的なイベントも一切行わない。菫さんの願望は、この学園の生徒にも普通の青春をエンジョイできるようにしてあげることだ。だから、生徒会長を目指すという。

「そこでだ、来月の定例生徒総会では、臨床心理系の研究の補正予算案を提起するので、戦闘部にも賛成を呼び掛けて欲しい。増額理由は、生徒が気軽に悩みを相談に行ける部屋の確保と設備投資だ。具体的な金額は木下と相談するが、大胆で野心的な金額になると思う。」
「ええ・・・」
困惑を隠せない菫さん。

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「優秀な研究生にきちんとした設備が整えば、一恋さんにも十全なケアができると思うのだが、どうだろう?」
一恋を持ち出して、菫さんにとっても魅力的な提案であることを印象付けてはいるが、事実上の見返り要求だ。

「申し訳ないですが、そのような取引には応じかねます!」
さすが、王子様と言われるだけあって毅然とした態度だ。

「そうか、残念だ」
あっさりと、要求を引っ込める千条。
「そんな、黒い要求に菫さんが応じるわけないじゃない。」
余計な横槍を入れるのはお嬢様。

「とても、残念ですが、一恋を救う手立ては別に考えます。」
そう言って菫さんが、席を立とうとすると、
「まて、勘違いをするな。別に、菫さんが私の要求を飲まずとも、一恋さんは助ける。いじめは卑劣な行為だ。断じて容認できない。」
「そう・・・なのですか?」
菫さんは、千条の真意を測りかねているようだ。
「信じて欲しい。そして、いじめる方を一方的に追い詰めて解決するつもりもない。」
このアプローチは、お嬢様のやり方とは決定的に違う。お嬢様の考えはあくまでも被害者救済。千条は、そして菫さんも、加害者も救済の対象と考えている。残念ながら、器の違いはある。
「ただ、そのためには受け皿が必要なのだ。残念ながら、この学園には受け皿となるべき学生相談室のような部屋がない。人材は一流の者がいるにもかかわらずだ。」
「それは、大問題だと思います。」
「補正予算は今は引っ込めよう。そのかわり部屋の確保だけでも賛成してくれないか?心の専門家に活躍の機会を与えてやってくれないか?なにより、苦しんでいる生徒を救う体制づくりに、協力してくれないか?」
要求を拒否されるや間髪いれずに代案を提案し、畳み掛けるように正論を吐き、持論を補強する千条。最初の提案が大きな金額を伴う受け入れ難いものだったので、金銭抜きの今回の対案が受け入れ易く思えてしまう。
「私一人が賛成するのは問題ありませんが、私の部員を巻き込むのは問題があると思います。」
「事前に賛成を呼びかけるだけでもいいのだが?」

菫さん個人の賛成は取り付けた。千条がどこまで切り込めるかみんなが固唾を飲んで見守っている。
「学生相談室のような機関がこの学園に必要であると事前に訴えることくらいはできます。というか、私から積極的にお願いしたいくらいです。ですが、結果的にどれくらい賛成してくれるかは分かりません。」
「うむ・・・。」
千条も悩んでいるようだ。結果までは確約できないが、菫さんは熱心に部員を説得する気はあるようだ。ここまでが限界か。それとももう少し切り込めないか。

「ああそうだ! 福島・加藤!!」
「おいっす。」
「確か、あなたたちは部活では菫さんの後輩に当たるな? 菫さんが部員の説得をしやすくなるように他の部員にも働きかけを行ってくれないか?」
「ああ、ええと」
指名された二人の目が泳いでいる。結果責任までは負いたくないといったところか?
「うちらが懇意にしている子達くらいは説得できるっすよ?ただ、それ以外の人とはちょっと無理っすね」
そこを曲げて頼むとまでは言わない千条。あまり厳しい要求をすると人の心が離れてしまうかもしれないからか?

それでも、戦闘部内で人望のある菫さんによる部員への頼みごとに、福島・加藤両名による事前の説得が奏功すれば、多方の部員はまとめられそうな気がするが、千条はまだ満足していない様子。千条は、もっとこの勝負を確実なものにしたいらしい。
「戦闘部は金がかかるだろう? 練習用の武器にトレーニング施設も充実させなければならない。もし、菫さんが戦闘部の補正予算案を生徒総会で提出したら、我々も微力ながら協力しよう。その代わり我々の提案にも賛成するように部員を説得してくれないか?」
確かに、そのやり方ならば部員の説得も容易になるが、
「ちょっと、あんた! いい加減に恥知らずな要求はやめなさいよ!」
お嬢様の横槍が再び入った。自分を無視した会議。そして、一恋のいじめの件を脇に追いやるような会議の流れに腹が立っていたのかもしれない。

千条は一応お嬢様の方に目をやり、
「確かに綺麗なやり方ではないかもしれぬが、生徒を守りぬく体制を迅速に作るために手段は選べないのだよ。大事の前の小事だ。大局を見失ってはいけない。」
「大局ですかあ~?あんたの派閥を焼け太りさせたいだけでしょう?」
「いかにも。」
悪びれもせずあっさりと認める千条に驚愕するお嬢様。
「教師も生徒会もこの学園をよくする意思がないのなら、私たちがやるしかないだろう。だが理想を実現するには力が必要なのだ。なあ、菫さん、あなたもこの学園を変えるために生徒会長を目指すのだろう?だったら、我々と敵対するのは絶対に避けるべきだ。」

現生徒会長は、学園に集まる多額の寄付を各部・各研究の実績に応じて公平に分配している。この、公平な利益の分配こそ、伝統的にこの学園の生徒会長に一番求められる資質なのだ。公平な分配をしている以上、有力な研究室は一番特をするわけで、とどのつまり有力な研究室が生徒会長の支持基盤となる。

菫さんは、生徒会長は「公平なアンパイア」であるだけでは不十分だと訴えているが、当然有力な研究室は支持するわけがない。また、有力でない研究室であっても、潜在的には有力になれる資質がある研究室が多いのでやはり積極的に支持することにはならない。結論を言うと、菫さんの現時点での支持基盤は、有力でない研究室でありかつ将来性のない研究室、ということになってしまう。もちろん、菫さん個人の人望で有力とか無力とかにかかわらず支持を集める戦い方をするしかないが、流石に利益の公平な分配が選挙戦の主眼であるうちはあまり期待できないだろう。

以上の背景を踏まえると、ここで、千条と仲違いすれば、菫さんの敗北は決定的になってしまう。

「なあ、菫さん。あなたもうすうす気づいているとは思うが、ここに集まる連中ははっきりいって落ちこぼればかりだ」
どっと苦笑が沸き起こる。けなされても、笑って流せる雰囲気でイヤミはまるでない。
「おのおのもちろん専門は持ってはいるが、人材が厚すぎるこの学園では、ちょっとやそっと優秀なくらいでは誰にも目をかけてはもらえない。結果、お昼のランチも独りで食べている者もいる。点としてしか存在できない生徒が少なからずいるんだ。」
「それは、とても悲しいことだと思います。」
菫さんは実感を込めて頷いている。脳裏にあるのは一恋ちゃんのことかな。
「私は、そういう点としてしか存在できない生徒をあえて選んでこのグループを作ったんだ。なぜだかわかるか?」
「居場所を提供したかったからですか?」
「そうだ。彼らを点ではなく線として結びつけ面にしたかったのだ。どんな人間にも存在意味がある。ましてやうちの学園に来るくらいの生徒だぞ?優秀であることは間違いないんだ。個々の能力を活かせる場を提供すれば、彼らはもっと健やかな学園生活を送れるようになると思ったんだ。」

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「戦闘部の100万円の補正予算案に賛成していただくことを条件に、学生相談室の部屋の確保に賛成しましょう。」
「こ、コイツの言ってること信じるの!?」
千条は自分の言葉でしゃべっている。しかも言っている内容はおかしくない。でも、もう一歩信用しきれない。おそらく、お嬢様の心情はそんなところだろう。
「千条様の提案は、生徒のメンタルヘルスの向上に資する提案です。これに関して言えば私の信念にそうものですから。」
「あのさあ、千条さまあ。今さらすぎる発言で恐縮なんですけどお。いつまでこんな大人数でここにいすわる気ですかあ?もう外暗いんですけど」
「お、もうこんな時間か。いや済まない。もうお開きにしよう。とにかく、一恋さんのいじめの件と補正予算案の件は私に任せて欲しい。悪いようにはしない。」
最後に、千条、菫さん、お嬢様の三人が握手をして会談が終わった。まあ、あくまでも儀礼的な握手だけど。

・・・



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Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

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もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

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