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事情聴取

翌朝、私はいつもどおりお嬢様を学園に送っていった。この都市の治安はお世辞にも良くはないので、どの生徒も独りで登校することはまずない。必ず友達と一緒か、貴族ならば護衛を付けて登校する。つまり、私は毎朝護衛の任務も兼ねてお嬢様と登校しているわけだ。絶対に気を抜いてはいけない任務だ。

「きゃさりんさまーーーー!」
あれ、校門の方から声が聞こえる。幻聴!?いやこれは本当の声だ。まさか!?ついにお嬢様にもお友達が!?
「あんた、今失礼なこと考えているでしょう?」
「いえいえ、お嬢様にもやっとお友達ができ」
「よく見なさいよ!よくそんな視野の狭さで護衛が勤まるわね!」
「ええ!?」
あ、あれは・・・・
「そうよ、やっとわかった?」
「誰ですか?」
「生徒会副会長、福山みゆき閣下だよ!」
そんなことも知らないのか、と言いたげに大げさなため息をつくお嬢様。

ええええ!! この人がっ!? やだすっごい可愛い!!! ネットのイメージとは全然違うというか。すごい美人、負けたかもしれない!私、もっと強圧的で、鬼ののような凶悪な顔をしているものとばかり思っていたけど、全然違うよ!?いやほんとほんと!色白で、丸みを帯びた体型。おっとりとして、栗色の髪は胸までかかっている。あ、胸は豊かだ。とにかく、あれだよ、ネットのイメージとは全然違う。外見からは、おっとりぽわぽわした優しいお姉さんのような印象だ。

「キャサリン様ー、今日少しお時間よろしいですか?」
「よろしくない。つか、早く教室入らないと遅刻になるんですけどー」
心底迷惑そうな顔で吐き捨てるように言った。
「それなら、大丈夫でっす!姫宮さんの公欠の許可を頂いてきましたのでー」
「はあああああああああ!?」
ドン引きするキャサリン様。福山副会長は印籠のように文書を提示してみせる。内容は、
「姫宮キャサリン殿、○月✖日、生徒会副会長福山みゆきとの非公式会談のため、授業の出席を免除する。」
「あんた!何してくれてんのよ!?」
「しっ! 声が大きいよ!! 詳細はもっと落ち着いたところでゆっくり話すから。ね」
両手を重ねて拝むようにお願いする福山さん。若干焦っているように見える。なんというか、早くこの場を離れたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。

sumire50_001.jpg

「まてっ!副会長ーー!」
後ろから猛然と突進してくる女生徒により、その理由はすぐに判明した。キキーっとブレーキがかかる音が聞こえてくるような勢いだ。若いっていいですね。
「副会長!どういうことよっ!なんでうちの研究室が一つ減らされるの!?あのお部屋は、先輩方から受け継いできた大事な部屋なのよ!研究生どうしの憩いの場にもなっているのに、後輩にどう説明しろってんのよ!」
福山さんは、うわ見つかっちまったよと言いたげな表情だ。
「お怒りはごもっともですが、あなたの専攻、つまり史学を先行する学生さんは年々減少していますので、公平性の観点から、お部屋も少なくするのが妥当と判断しました。」
「で、その代わりにデザイン科の部屋を増やすんだってね・・・すっごく奇妙ですね。デザイン科専攻の学生は一名しかいないはずですが。え?どう説明してくれるの?」
「そ、それは・・・」
バツの悪そうな顔をして目をそらす福山さん。
「えと、ですから、デザイン科の学生は、学園マスコットを制作して大成功させました。関連商品が多数売れたことで、学園も相応の臨時収入を得ることができましたので、そのご褒美の一環としてお部屋を・・・」
「はああ!? だからって、なんでうちらがそんな施ししないといけないわけ!?」
「ご、ごめんなさい。今日は先約があるのでこれで失礼します。さ、行きましょう!」
お嬢様の手を強引に掴んで逃げ出す福山さん。勢い私も走り出すことになるわけだが、
「ちょ!? まだ話は終わってない!!」
背後から抗議の雄叫びがこだまする。この紛争はあとをひきそうですね。福山さん。


3人とも出身成分がバラバラのため、3人で入店できる店がない。例えば、普通の喫茶店に行くと通常出身成分Cは入店を断られるし、かといって出身成分Cが入店できるお店はB以上の入店は断られる。というわけで、
「ま、このメンツだと、私の家に戻ったほうが良さそうだね。」
という、お嬢様の結論に達するわけだ。
「お手数をおかけして申し訳ないです。」
「別にいいよ?どうせ人に聞かれちゃ困る話をするんでしょうし。」
「あはは、話が早くて助かりますが。でもそんなに堅苦しく考えなくてもいいですよ?」
まあ、流石にこの発言は信じられない。どうせ、姫宮様の処分の話だろうし。こちらとしては、できる限りのおもてなしをして、相手の戦意をそいでいくことくらいしかやることがない。どんなお部屋でどんなもてなしをするか
で話の帰趨が変わるかもしれない。そう考えると、すでに戦いは始まっているといえよう。

「わああああ!素敵なお庭ですね。お屋敷は洋館なのにお庭は純和風というのも珍しいです。あっコイがたくさん泳いでる!コイって、人の足音だけで寄ってくるんですね。」
「まあ、餌をもらえると勘違いしているだけだけどね」
「ああ、そうなんだ。でもごめんなさいね。今何も差し上げるものがなくて。」
「いいっていいって。憂が定時になったら餌やってるから。」
「大きな池の周りが遊歩道になっているのですね。ああすごい!休憩所まで設置されてるよ。」
天真爛漫な笑顔で感嘆の声を挙げる福山さん。まあ、自分が手入れしている庭を褒められて悪い気はしない。
きっと、お嬢様も同じ心持ちだったのだろう。

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「そんなにここのお庭が気に入ったなら、そこの休憩室でお話しましょうか?」
「え!?いいんですか?」
「問題ないよ。憂、準備を!」
「畏まりました。」
さあ、戦いはもう始まっているよ。相手が感動のあまり思考停止するようなもてなしをして、話し合いが始まる前にこちらのペースを作ってしまおう!

「わあ、すごーーーい。まさか朝からプリンアラモードがてべられるなんて思わなかったよ。しかもこんな大きいの見たことない!」
ふふふ、早速私たちの術中にはまっている福山さん。プリンの大きさは通常の5倍。スイカ、りんご、いちご、メロン、ぶどう、が惜しげもなく盛り付けられ、ホイップクリームはもちろん、なんとアイスクリームまでついている。
「美味しいですね♪これ、貴族の女の子っていつもこんなに美味しいものを食べているんですか?」
「まさか、普段は質素だよ。てか、欲望を制御できないと無意識に魔法を使って身を滅ぼすからね。むしろ、贅沢は厳禁なんだよ。」
「う・・・ん?」
キョトンとした顔をする福山さん。
「魔法はただじゃないからね。アイスが食べたいからといってアイスを魔法で創造すれば、体力が削られるの。あれもこれもになってしまうと身が持たないから、普段から欲望を制御する訓練が必要なのよ。」
「それってつまり・・・」
スプーンを弄びながら質問する福山さん。
「格闘家が、日常生活では攻撃性が前面に出ないように精神を鍛錬するのと似てますね。」
「ああ・・・なるほど。いい喩えだね。」
福山さんのハイペースな食事と同じくらいに雑談も進んでいる。出だしは順調だ。冷えた体を温められるようにさりげなく紅茶を淹れる。
「では、貴族の方はみんな質素なライフスタイルになるんですね?」
「まあね。自分の身を破滅させないためと、あとは民衆からの尊敬を失わないためにね。まあ、例外的な人もいるけど。」
「ふうん、あなたたちも見えないところで苦労してるんだねえ」
うんうん、お姉さん感心しちゃったよとてもいいたげな頷き方だ。ちくしょういちいち仕草がかわいいなあ。でも、いまの発言には少し影があったな。なんというか、共感?私も見えないところではいろいろある的なニュアンスが感じ取れた。考え過ぎかな。

「さて、美味しいもてなしをしていただいて恐れ多いですが、そろそろ本題に入りたいと思います。」
お?いよいよ開戦か。こちらも気を引き締めねば。お嬢様の顔色にも緊張が・・・走ってない。プリンまだ食べ続けているよ。挙句、この発言だ。
「ん?いいよ、勝手に話しちゃって?聞いてるてるから」
いやいやマイペースすぎですよ。福山さんも苦笑しているし。こういうのは少し困るな。
「では、手短に要件を話しますね。」
別段、怒った風もなく、ニコニコしながら話す福山さん。出来た人だ。
「とある生徒二名から、姫宮さんに殺されかけたという訴えが届いております。なにか弁解はありますか?」
いきなり核心をついてきたよ。
「ああ、あれね。まず私に彼女たちを殺す意思はありませんでした。」
「それを、どう証明しますか。彼女たちは危険な大蛇をけしかけられたと訴えていますが。」
「あれは、私の脳内イメージを外に転位させただけ。殺すどころか危害を加える意図もなかったよ。」
「実際の大蛇を転移させたのではないですか?」
「それは無理。大蛇の正確な位置を特定できないと召喚できないから。もちろん、私にはにゅるにゅる動く大蛇の位置を正確に特定するなんて、大蛇の近くにいても難しいでしょうね。」
「姫宮さんが何もないところから大蛇を創造したということはありえませんか?」
「ない。それをするためには大蛇についての専門的な知識がないと不可能。筋肉とか骨格とか神経とか。もちろん、私にそんな知識はないし、付け焼刃で勉強したくらいの知識じゃとても無理ね。また、かりに創造する力があったとしても、とてつもない大魔法になるので、私の方も相当体力を使うはず。」
「その時、姫宮さんがクタクタになったという証言はありませんね。」
「でしょ?」
「では、最後の質問です。なぜ姫宮さんは彼女たちを怖がらせるようなことをしたのですか?」
「ねえ、この茶番、まだ続くの? あなたも全部わかってるんでしょう?」
「一応決まりですから。いやいやでもなんでもいいから答えてください。」
「あの二人が、一恋ちゃんに暴行をくわえていたからだよ。そのくらいやんなきゃ、あいつらいじめをやめないだろうからね。」
「なるほど。彼女たちがその時いじめを行っていたことは生徒会も認定していますし。うん全てつじつまが合いますね。」
「ふう、もう終わりでいいかな。」
「終わりでいいです。ご協力に感謝致します。彼女たちの訴えは却下します。ご安心ください。」
「まあ、当然だと思うけど」
「なにか、気になることでも?」
「どうしてあいつらは一恋ちゃんをいじめるのかなあと思ってさ。」
「それについては、分かりません。もちろん自分なりの意見はありますが。」
「その意見でいいから聞かせてくれない?」
「ひとつの理由として、貴族に対する差別意識でしょうね。」
ええっ!? これは聞き捨てならないよ!!
「貴族に対してですか!?キャサリン様もそんな扱いを受ける可能性があるのですか!?」
「憂、落ち着いて。話が複雑になる。」
「まあ、キャサリン様は大丈夫だと思いますよ。強いですから。いじめの基本は弱いものいじめです。」
そっか、とりあえず安心。
「で、貴族がなんで差別されるの?」
「貴族の方は、事実上、受験が免除されますから。」
「ああ・・・」
そう言われてお嬢様はバツの悪そうな顔をする。
「この学校は、3浪4浪当たり前の超難関校です。苦労して入学した生徒から見れば、貴族の方は楽をして入学して面白くない、という意識が差別のベースにあるでしょうね。」
「貴族は受験勉強の洗礼も受けずに入学できて卑怯だと言いたいわけ?」
「んー、まあ」
ちょっと思案顔の福山さん。当の貴族を目の前にしては言いにくいだろう。
「・・・」
お嬢様も黙ってしまった。
「ちなみに、あなたは貴族に対してどう思ってるの?福山さん。」
「私は、感謝していますよ。貴族のかたの寄付がなければこの学校の運営だって成り立ちませんから。それに、国富の源である貴族の魔法はとても貴重な力ですし。ただ、」
「ただ?」
「貴族の寄付は、各種免税特権に守られて蓄財された富から拠出されたものだと考えている学生が多いのも事実です。」
「別にいいじゃない。きちんといいことにお金を還元しているんだから。」
「ええ確かに。でも、威張れるような話じゃないですよね?元々、帝国国庫に収められるべき税金が公共のために使われたとしても、それは当たり前の話じゃないですか?私たちに貴族へのリスペクトを求めるのは筋違いです。」
「なに、あんた喧嘩売ってんの?貴族はずるして私腹をこやしているから、学校でいじめられてもしかたないってこと?んで、生徒会は守る気がないと?」
「いえ、そこまでは思っていません。私個人としては貴族の方には感謝していますよ?」
「憂! あんたは? あんたは貴族についてどう思っているの?」
おっと、こちらに飛び火してきたよ。
「私、というか賎民全般に言えることですが、貴族の方には感謝しかありませんね。彼らの施しなくして私たちの生活は成り立ちませんから。正直申し上げて、貴族の方の富の一部が庶民に移れば、私たち賤民は餓死者が続出すると思います。庶民の方は賤民を疎んじていますし。民主主義の名のもとに庶民の方が多数決の暴力を振るうようになれば、一番割を食うのは賤民でしょうね。」
「いえ、そんなことはないです。ないですよ。自由に使える税金が増えれば賤民の方への教育機会も与えられるようになると思います。きちんとした教育を受けられれば賃金の高い職に就くようになれます。貴族の施しに頼る理由もなくなりますよ?」
「申し訳ございませんがとても信じられません。あなたがた庶民が過去・現在賤民にどんな仕打ちをしているかを考えれば。」
「そ、それは確かに反省の余地があるけど。でもそんな差別意識を持っている人ばかりじゃありません。」
「差別意識を持たないで差別をする人が一番タチが悪いですよ?」

「ちょっとちょとあんたたち!もうやめよう、この話。」
ああ、知らないうちにヒートアップしてしまった。申し訳ございませんお嬢様。お嬢様は残っていたお水をくいっと飲み干し
「身分制社会の是非については今日のテーマではないはずだよ。」
「ええ、そうでした。ご不快な思いをさせて申し訳ございません。」
申し訳なさそうに謝罪する福山さん。まあ、あれだ。外見どおり甘い人かと思ったけど、いや基本的には優しい人なのだろうけど、言うべき時にはきちんと言えないと、アクの強い学生をまとめられないのだろう。
「あの、憂さん? お手洗いは近くにありますか。」
「お手洗いは、お屋敷まで行かないとないのですよ。」
もちろん、姫宮家では外のトイレぐらい設置する財力はあるけども、管理する立場としてはこれ以上の負担は無理だ。メンテナンスを業者さんに頼むにしても、家の間取りを把握されるのは防犯上よろしくない。つまり、外にトイレはない。
「憂。ご案内して差し上げなさい! くれぐれも失礼のないようにね?」
さっき険悪なムードになってしまったのでお嬢様から釘を刺されてしまった。これはもてなす側としては失格だ。反省しないとね。

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「では、福山さん。ご案内いたしますね。」
「ええ、よろしくお願いします。」
基本的に、女性がお手洗いを告げるのは躊躇するものだ。だからよほど切羽づ待っているのかと思って早足で先導しているが、福山さんにはあまり焦りの色が顔に出ていない。妙だな、と思ったが気にしないようにした。そして、それは玄関の扉を開けて福山さんを中に入れしめた瞬間に起こった。

「ねえ、憂さん」
「はい、なんでしょう?」
って魚おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
いきなりキスされたのですが!?え?何この展開??この人こういう趣味があるの?お手洗いは口実で私と二人きりになるために誘導したのか?やだ、すごく恥ずかしいんですけど。フレンチキスじゃなくてもっとディープなキスだよ。
「う・・・ん・n」
なんとか声を出そうとしてみるが、口が塞がれて声が出ない。それに、かなり息苦しくなってきた。は!? まさか、新手の殺人手段!? 確かにこのままこの体勢が続けば呼吸困難で死に至るだろう。くっ、別に死を恐れはしないが、まさかこんなくだらない手段で暗殺されるとは無念の極み。さきほどの私との会話は彼女にとっては殺したいほど不快な内容だったのか。うかつだった!人間心理を読み間違えた報いか。ああ・・・意識が、意識が遠くなる。せめてお嬢様・・・に・・・ともだちが・・・でき・るまではいきてい・・・たかった。口の中に何か丸薬のようなものが押し流される感覚を最後に私は意識を失った。

sumire53_001.jpg

「起きて」
福山さんが命じる。私は従う。理由はまるでわからないが、彼女の言うことには従わないといけない気がするのだ。
「聞きたいことは二つ。」
「はい。」
「直近の千条派閥の会議で参加した人数は?」
直近・・・?ああいじめ検証委員会か、あの時は確か
「12名です」
「たったの12名か、くす。」
福山さんは笑う。何がそんなに愉快なんだろう。
「学園裏サイトでは、一恋さまがいじめられたときは千条派閥のメンバーが助けることに決まったと書いてあったけど、実際に命令を実行したのが何人だったか、あなた知ってる?」
「いえ、寡聞にして、存じ上げません。」
「そう、もういいわ。しばらく寝ていなさい。」
「はい」
そう言われた刹那、私の意識は今度こそ暗転して戻らなかった。

・・・



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Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

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http://catherine2010.blog119.fc2.com/

もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

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