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姫宮家の朝

姫宮きゃさりんの朝は早い。

焼きたてのパン。
新鮮なお野菜。
ベーコン。

そして香ばしいコーヒーの香り。

開け放たれた窓からは、朝日の光がさんさんと部屋に舞い降り、わやかな風が、お庭の木々や花や土のにおいを部屋に届けてくれる

「ふふ、さわやかで健康的な朝だわ。エレガントな私にぴったり。」
私は、100人とすれ違えば99人は振り返るであろうほどの魅力を秘めた完璧な微笑を顔に浮かべていた。

はあ。鏡に映る美少女の悩ましくも美しい肢体に思わず見とれてしまう。

顔よし、スタイルよし、頭よし、性格よし、お金持ちの上に、選帝侯という人臣を極めた貴族の子女が、違いの分かる人が見れば一目で分かるような陰りを含んだ微笑を浮かべていた。

まさに、完璧。完璧すぎて、逆に怖いの、神様。
そっと、不安を打ち消すようにお気に入りのウサギのぬいぐるみを抱きしめる私。

選ばれし者のみが理解できる高貴な悩みに私はいつも苦しんでいた。

ああ、神よ! どうか、私に苦難をお与えください!今の私はあまりに完成されすぎていて、下々の卑しい身分の民衆どもに申し訳が・・・

猿からメールが来ましたよ!」

パソコンから女の子の声が響いた。メールが届いたら音声で知らせるように設定してあったのだ。

「ち、由納言美か。 せっかく、自分に酔っていたのに、一気に醒めちゃったじゃない。」

まあでも、朝の挨拶とは殊勝な心がけだわ。ようやくあの女も身の程をわきまえられるようになったのねえ。えらいえらい。

メールの内容→「巨乳ですか?」

ううん。そうかあ。実に礼儀正しい文面・・・。

「具嗚呼杖意fびうcぬしcんcwん!!!!!!」

「巨乳じゃなかったらどうなるのよ!? 誰かが死ぬの? 世界が滅びるの!? 大体、胸の大きさで人間の価値なんか決まるわけないじゃない!」

sumire108.jpg

私はすぐ由納なんたらとかいう女に身の程を教えるために抗議の返信を作成しようとキーに手を伸ばした。その刹那であった。

「何事ですか! お嬢様!! 今、イノシシの断末魔のような叫び声が聞こえましたが、暴漢に襲われましたか!?」
ノックもせずにいきなり扉を開けたかと思えば、無礼極まりないセリフを放つ不埒者が私のそばに駆け寄ってきた。
「ノックをしてから入室しなさいといつも言っているでしょう! いつになったら私は一人前のレディーとして扱われるのよ!」
「申し訳ございません、お嬢様。ですが、お嬢様の身の安全のほうが礼儀よりも大事ですので。それで、お怪我はありませんか? 襲撃者の特徴を教えてください!!」
「だーかーらー!」
私のいらいら測定器の数値が急上昇する。
「誰にも襲われてないって! 無礼なメールが来たから、ちょっと叫んだだけだって!」
「えっ・・・」
にわかには信じられないような表情で周囲の状況を確認する侍女。部屋の様子はいつもと変わらないはずだ。
「失礼いたしました!」
「分かればいいのよ。」

ええと、躾のなってない侍女のせいで一瞬忘れかけたけど、今は猿の躾のほうが大事だ。しっかりと身の程を教えなければ。


返信→(美乳ですよ?)

猿、即レス→(微乳の変換ミスですね?)

「うぜえ・・・」
こめかみの血管が浮き上がるのが実感できる。
「お嬢様、お言葉が乱れていますよ?」
まだいたのかこの侍女は。
「憂、水を持ってきて頂戴。なるべく、ゆっくり、時間をかけて。」
「はあ、時間をかけてですか。」
とたとたと退出するうざい侍女。これで猿のしつけに専念できる。

とあるプリセンスのメール→(何?あんたけんか売ってんの?)
猿の即レス→(あら、私にそんな口聞いていいと思ってんの?)

なんなのよ! この原人は!! いつも以上に絡んでくるわね。

史上最高の美少女からのありがたいメール→(はあ? 田舎貴族の娘が何勘違いしちゃってるの?)
田舎の元気娘からの即レス→ (はあ? あんた私の話聞いてもまだそんな口聞けると思ってんの?)

さすがに、寛大さに定評のある私ですら我慢の限界が近い。でも、高貴なる者の義務として下々の卑しい身分の者には神のように慈悲深くなければならない。

「ふう、慈悲深く。優しく。寛大に。」

はーはー、ふーふー。私は目を閉じ深呼吸をし、気分を落ち着かせた。

「お嬢様! お水をお持ちしました。」
「早いよ!!! まだ来なくていいのに!」
ぶちきれてしまったが、侍女の躾は大事。
「申し訳ございません。お嬢様。」
「もう出て行って。呼ぶまで来なくていいから!」
「はあ、ですが、FAI・XF・うららさまのご様子を確認されたほうが。」
「そんなこと分かってるから。後で行くから出てってよ。私は今忙しいの!!」
「はあ。では失礼いたします。」
後ろ髪引かれるように出て行く憂。さて、猿の調教の再開だ。

sumire109.jpg

さる賢者様からのメール→(あんたね。用件があるなら早く言いなさいよ。私だって忙しいのよ。)
さる愚者からの即レス→ (あんた、近々、茶会を開くそうね?)

プリンセスからのメール→(そうよ。何? あんたも来るの?)

姫宮家にとって茶会は単なる娯楽イベントではない。どんな地位の人がどれだけ表敬訪問に来るかで姫宮家の威光を測定できる、いわばリトマス試験紙なのだ。そして、猿、というか由納言美は個人的には嫌いだが、腐っても選帝侯の家格。悔しいけど、出席してくれれば茶会に箔が付く。

私は少しだけ興奮した。少しだけだよ?

猿姫の返信→(出席してあげようと思って招待状みたんだけどさ、これ何?→「添付ファイル」)

何って何よ。私は添付ファイルを開いた。すると、

午前の部の茶会に参加します/参加しません
午後の部の茶会に参加します/参加しません

参加ご希望の部を丸で囲んでください

問題ないじゃない。と思って目を下に移すと、

飲食物の持ち込み大歓迎

・・・飲食物? ばっかじゃないの? なんで茶会に飲食物を持ち込めるのさ。これじゃあまるで、ホストは客人を満足にもてなせるだけの飲み物も食べ物も用意できませんと宣言しているようなものじゃない。みっともない招待状を出す貴族だな。

「・・・って私だよっ!!!」

猿→(姫宮家は、客に飲食物をもちこんでもらわないと茶会ひとつ開けないほど経済事情が悪化してるの? 今、この招待状、ネットにアップされてネタにされてるよ?)

ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、これは違う。あれだ、ネットで拾った何かのテンプレをそのまま出しただけで、あたし知らない。第一、茶会の招待状のテンプレにそんなオチの付く記載なんてあると思わないじゃない。

「きゃさりんお嬢様!」
「呼ぶまで入るなといったでしょう!今、大事なこと考えているんだから!!」
私の一喝に、なぜかいつものように怯まない憂。体調が悪いのか顔色がよくない。

「おおお、、お嬢様のお姉さまから、ネットでアップされている茶会の招待状の件で説明をしなさいとのお電話が。なんだか、すごくお怒りのご様子です。」

うぐっ。やばっ。こわっ。姉上の耳にも入ってしまったか。いかん、急に吐き気が、朝食べたもの全部はいちゃいそう。

「私は、流行病にかかったと申し上げなさい!絶対安静で動けないと!!!」
電話にでる憂。
「お嬢様は今、頭の病気で絶対安静で動けないので、」
「頭じゃないよっ! 流行病だってーの!」

「今の叫び声ですか? お嬢様の声じゃないです、よ? ええ、あと、頭の病気じゃなくて流行病だそうです。 」

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ちょっと、あんた。何してくれてんのよ。そんな言い方じゃ私が嘘付いているの丸分かりじゃない!
もうだめ! こんな機転の利かない侍女に任せていたら状況が悪くなるばかりだわ!

「ちょっと、貸しなさい!」
私は電話をひったくった。


「ごほっ! げほっ! はあはあ。」
私は息苦しさを演出した。よし、見事な病弱アピールだ。これは姉上といえども見抜けないよね。

「姉上。お久しぶりでございます。はあはあ。」
重病を装い、同情を誘い、自分のペースにもっていこう。

「どうしたの?具合悪いの?」
よし! 哀れみの声を引き出せた。本題に話がうつるまでに弁解の言葉を考えよう。

「はあはあ。げほっ!」
「頭の病気って本当? ついに狂ったの??」

ひどい言われようだ。憂といい姉上といい、普段、私をそういう目で見ていたのか。
「いえ、頭に熱がこもる病気だそうです。」
頭というキーワードは外さずに、流行病につなげたほうがいいだろう。

「本当に大丈夫なの? 」
「お気遣い。ありがとうございます。ごほっ。」
「こんなときに、あなたに厳しいことを言わなければいけないのはつらいけど、」

きたか・・・ ついに。緊張で、おなかが痛くなってきたよ。ええい、先手必勝だ!

「姉上。招待状の件ですね。すべての責任は私にあります。」
「えっ!」
いきなり全責任を認めたのがよほど意外だったのか姉上の声が裏返った。
あれは、すべて侍女がやったことなんです。信頼できる子なので私が最終的に確認しませんでした。これはすべて私の監督不行き届きが招いたことです。はあはあ。」

侍女が勝手にやったことにすることで、私の責任を監督不行き届きに限定する戦術だ。

「なるほどねえ・・・。でも気おつけなきゃだめよ? 姫宮家全体の信用にも関わる問題だよ?」
「はい! それはもう命をかけて反省しますです! はあ、げほっ!」

「茶会は中止しなさい。あと、公務が終わったらお見舞いに行くね。」
「あああっつと! それは姉上!」
「何? 問題があるの?」

あるに決まっている。私は昨日から旧校舎に宿泊しているのだから、屋敷に来てももぬけの殻だ。かといって、流行病にかかったと弁解した以上学校で寝泊りしているのはおかしい。

「あなた、まさか学校に寝泊りしてるんじゃないでしょうね? 病原菌をまきちらす行為よ?」
「いえ、それは、その・・・自宅で療養していますよ。」

言葉に詰まりそうになりながらも、何とか言葉をつないだ。少しでも隙をみせたら嘘がばれそうで怖いので焦る。

「あのさ・・・疑うようで悪いんだけど、宅電に電話をかけなおすわね?」
「だああああああああああああああ!!!! ちょっと、まってーーーーー」

ぴっ! 無情にも電話は切れた。それは、私にとって希望の糸が切れたのと同義。

This is the end of all my hope. (全ては終わった)

などと、たそがれている場合じゃないわっ! 追い込まれれば追い込まれるほど、魂が燃え上がるの。それが私の生き方。
みてなさいよー!

「憂! ダッシュで家に戻りなさい!!
「間に合うわけないじゃないですか!」
「いいから、戻りなさい!! お庭のお仕事をしていたから電話に気づきませんでしたとでも言えばいいから!」
「第一、きゃさりん様が家にいなければ意味がないじゃないですか!」

「だあああっ! もうっ! 私は容態が急変したって言えばいいでしょう!?」


侍女との言い争いがヒートアップしたそのとき、ばあんっという轟音が響いてドアが開いた。振り向くと、千条さんが鬼の形相で睨んでいる。ああ・・不動明王のようだ。さすが武門の家の娘。

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「おまえらっ! いい加減にしろよ! 朝からぎゃーぎゃーわーわー下劣な奇声を上げていたかと思えば今度は大声で怒鳴りあいの喧嘩か!? となりで病人が寝ていることを忘れないでくれ!」

・・・



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プロフィール

Catherinefx

Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

とある乙女の裁量決済(ロスカット)
http://catherine2010.blog119.fc2.com/

もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

最新記事も上記ブログで読むことができます。

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