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総反抗

「鏡よ鏡よ鏡、世界で一番美しい存在はだあれ?」
「それは、きゃさりんお嬢様です」
「鏡よ鏡よ鏡、世界で一番正しい存在はだあれ?」
「それは、きゃさりんお嬢様です」
「忠誠には?」
「愛を!」
「反逆には?」
「死を!」

「分かってんじゃないのよ! 憂! なんで姉上に本当のことをばらしたの!?」

「あの、えと、私は姫宮家に雇われる身ですので、姫子様には本当のことを申し上げる義務があるのです。」
「そんな弁解聞きたくない!どうして自分の過ちを認められないの?」
「いえですから・・・」

なおも見苦しい弁解を続けるダメイドに私のイライラメーターの値は急上昇した。
「憂。よくお聞き! 本来であれば、姫宮家第三プリンセス直属の侍女ともなれば下級貴族が勤めてもおかしくない立場なの! 分かる? あなたがどれだけ恵まれた身分にいるか。」

事実、姫宮家長女にして帝国および各領邦君主国家の陸軍大臣を兼任している姫子お姉さまと姫宮家代々の領土である姫宮フリーランドを継承し先の第二次千条家征伐では少数の兵ながらも勇猛果敢な働きをした水姫お姉さまに仕える侍女はすべて中級貴族である衣川家から輩出されている。

「私が格別な恩寵をあなたに与えているからあなたはここにいられるのよ!」
「いえですから、私は・・・」
「何その うわっこの小娘ちょーうぜー とでも言いたげな顔は!?」
「いえ、私はそんなつもりは全然・・・」
「ていうかあなたそんなにうなぎが食べたかったの!?」
「はい・・・うなぎ?」
「大体私はうなぎアレルギーでうなぎが食べられないから食卓には出すなと言ってたのよ!別にうなぎの好きなあなたに嫌がらせしてたわけじゃないの!」
「あ・・あのキャサリンお嬢様。お話が少しずれてってますよ?」
「ずれてるのはあなたの忠誠でしょう? あなたはいったい誰に仕えているの?」
「はい! 私は姫宮家にお仕えしております!」
「違う! 私に仕えているの!」

憂の忠誠の対象がどこにあるのか。それについての二人の認識の相違が今回の悲劇を招いた一因であることは間違いない。このけじめはきちんとつけておかないとあとあと絶対火種が残る。

憂の言うことは正論ではあるけど日々の生活をともにしている私よりもテクニカル的な解釈では正しい忠誠論を重視するスタイルが悲しい。憂は家政機関としての姫宮家に忠義を尽くすあまり直属の主人である私を無視している。

こんな悲しいことは断じて容認できない。

「100歩譲って、姫子お姉さまの言い分を認めるとしても、私の面目もつぶさないような提案の一つや二つするべきでしょうがっ!」

Comic03.jpg


「はあ、そうですね。」
はあ、そうですね? それだけ? せっかく私が熱弁をふるったのにそんなさめた反応しかできないのかこのダメイドは!
仕方がない。私が手本をみせるしかない。

「憂! このチラシをコピーして旧校舎の掲示板に貼り付けて回りなさい。あと、そこらへん歩いている学生にも手渡ししなさい。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

きゃさりんお嬢様抗議の断食!
いじめ問題に対し度重なる抗議をしたにも関わらず微温的改善に終始し、解決に向けた意思と能力を持たない現生徒会役員たちは潔くその非を認め全員退任することを要求する。

現生徒会役員全員の辞任が確認できるまで、私姫宮きゃさりんは無期限の断食を決行する。

生徒会はいじめ問題解決の対応策として新規定を発表したが、その内容はとても受け入れられないものである。

「極めて悪質ないじめをおこないかつ反省の念が認められない生徒には停学処分に処すことができるものとする」

という新規定追加は、いじめ加害者に停学処分の可能性について言及されており一定の評価はできよう。しかし、できるものとする、と言う規定では生徒会の裁量でしなくてもよいと解釈できる。このようなザル規定は断じて容認できない。私は、即日生徒会に抗議の意を表明し規定の見直しを要求した。そして翌日規定はさらに改定される運びとなり「できるものとする」という文言は削除された。

しかし、私は次の非常に小さい文字で書かれた施行細則を見て驚愕した。
「いじめ被害者がいじめ加害者にいじめ罰則規定の適用を生徒会に要求する場合、被害者自身がいつどこで誰にどんないじめを受けたかを10日以内に報告すること。」

これを文字通り解釈すれば、
1 いじめ被害者ではない者からの報告は受理しない

いじめを受ける者は基本的に気の弱い子が多い。ゆえに報復を恐れて自分から言い出せない。そのため、事情に通じた第三者からの通報を受け付けないとなれば救済の可能性が著しくなくなる。事実、今までのいじめ問題はすべて第三者からの報告で発覚している。

2 いじめ加害者が特定されていない報告は受理しない

いつ、どこで、どんないじめを受けたかはいじめの当事者であれば理解できるのは当然としても、いじめの加害者は常に特定できるとは限らない。例えば、机の上の落書き、所持品を隠される、うわばきに画鋲を入れられるなどのいじめはその加害者を特定するのは困難だ。このような場合被害者は泣き寝入りしろと言っているようなものである。

3 いじめ被害の立証は被害者が責任をもたなければならない。

仮に、被害者が強い精神の持ち主でなんとしてでも加害者を特定しようと決意したとしても、上記の例のようないじめの加害者が特定しにくいケースの場合、冤罪を避けるためにも加害者の特定には慎重な作業が必要になる。この負担を精神的に不安定になっているいじめ被害者に要求するのは著しく道理に反すると言わざるを得ない。

4 10日以内に報告しなければならない。
いじめ被害者がいじめ被害の全容を10日以内に報告することは不可能に近い要求だ。

以上より、もしこの新規定が運用された場合、同規定がいじめ被害の抑止になることは絶対にありえないことは明白である。むしろ、今まで以上に堂々と弱いものいじめが横行することになるのは神ならざる凡夫でさえ予言できる。このような、姑息な施行細則で規定を骨抜きにするような卑劣やり方からは、いじめ問題に正面から向き合う意思がひとかけらも感じられない。現生徒会役員は、派閥の求心力を維持したいという身勝手な自己都合でのみいじめ問題に関心があるのであって、いじめ問題には本質的に無関心であると断定せざるを得ない。

言うまでもなくいじめは絶対に容認してはならない行為である。その卑劣な行為に臆せず堂々と向き合う意思も能力もない生徒会役員にはもはやリーダーたる資格はない。生徒を守る意思のない者は生徒会役員室から即刻去るべきだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あ、あの、あの、、、お嬢様! お話が飛びすぎてますよ! 断食はあくまでもお嬢様個人に対する罰として行われるのですよ!?」


「黙りなさい! 私はいじめ問題に抗議するために断食を行うの! お姉さまに非を認めたからじゃないの!! 」
なんでいちいち説明しないと分からないかなこのダメイドは!こういう提案をあなたのほうからするべきなのよ本来は。お姉さまにも私にも顔が立つような提案をね。

「あ・・・あのお嬢様。この記事によると、無期限の断食となってますが?」
「はん、期日区切ったら脅しにならないでしょ? 姫宮家第三プリンセスの身に危害が及ぶ事態に発展するかもしれないと思われなきゃ意味ないじゃん。」

未だに私の意図が理解できないダメイドに嘆息を禁じえない。
「ですが、断食が続きますと本当に健康を害する恐れがあります。 お嬢様、おやめくださいませ。」
「だからこそ安全なのよ。プリンセスの身に目に見える危険が及ぶと分かれば、生徒会は私の言い分を即座に丸呑みするするにきまってるじゃない。そうなれば、私は校内に長期間蔓延っていたいじめ問題を電撃的に解決したヒロインになるわけ。もちろん姫宮家の名誉も格段に上がるから姉上も母上も何も言えないよ。万事結果オーライ!」

「そううまくいけばよいのですが。何分私は学校内の事情には疎いので判断いたしかねます。」
「あんたは私の言うことを信じてさっさとこれをコピーして旧校舎じゅうにばら撒いてくればいいの!」
「ううん・・・」

憂は心底困惑した顔でうつむいている。 どうやら本当に気が進まないようだ。
「お嬢様。最善を望むだけではなく、最悪に備えることも必要だと思います。万一、お嬢様の思惑が外れ生徒会側が黙殺なしい微温的改善案を小出しに繰り出しつつの持久戦を選択した場合、お嬢様はエンドレスに断食をしなければならなくなります。とても危険な賭けだと思います。」

ふむ・・・一応、憂なりに心配はしているみたいね。ひどい侍女だと思っていたけれどやさしい面もあるじゃない。
「無期限の断食に追い込まれた場合、お嬢様はお覚悟はありますか?」
ふん、私の覚悟か。面白い、狂気の沙汰ほど面白い。そのときは、
「憂!」
「はっ!」
珍しく真剣な私の声色に居住まいを正す憂。そんな憂を上から睥睨しながら私は高らかに宣言した。
「私は、姫宮家第三プリンセスよ。 姫宮家の家門の尊厳を汚すようなへたれな断食はしない覚悟よ!」

というわけで、姫宮家第三プリンセスが生徒会に対し抗議の断食をするというニュースは早馬のように学校中に知れ渡っていった。いったんだけど、

「ねえ、あんた。死ぬって聞いたんだけど、本当?」
いきなり部屋に入ってきかたと思えば、断食を控え、神経が痛いぐらいにぴりぴりしている私の目の前でおもてなしの焼き菓子を無遠慮にぼりぼり食いながら不穏当極まりないことをほざく目の前の猿がまじうざい。

「はあ? あんた頭大丈夫? どこでそんな怪情報を仕入れてきたの?」
「どこって、あんた知らないの? [キャサリンお嬢様死に至る断食を決意] っていう噂で今学校内は持ちきりよ?」

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死に至る断食・・・。いやいやいや、ないないない。私、そんなキャッチーなフレーズ、文章に入れてないから。
「それは、悪質なデマよ! 誰かが私を落とし入れようとしているんだわ!」
私は憤慨した。てか、誰よ。こんないい加減な風説を流布している輩は!
「ぱくぱく、あんたねえ。旧校舎の掲示板に張られた文章を見たんだけどさ。むしゃむしゃ。」
下品な女ねえ・・・。食べるか話すかどっちかにしなさいよ。
「ごくごく、あの書き方じゃ、死に至る断食を、あ、チョコレートももらうね?」
これは、何?飯テロってやつ? 得体の知れない誰かの甘言に乗せられて、断食を控え、食に過敏になっている私の心を折りに来てるの?
「決意したって解釈されても仕方が無いと思うよ。だって無期限の断食を決行って書いてあるんだから。あ、憂さん、私、お水よりアイスコーヒーがいい。」
「・・・」
「人間は食べなきゃ死ぬってあなた知ってる?」
・・・こ、こいつ、私を馬鹿にしているのかっ!
「あんたはいったい何しにきたの!? 誰かにそそのかされて私の闘志に水を差しに来たわけ?」
「うん? あんたに伝言があって来たんだ。 」
「伝言・・・?」
「ああ、だからね。」
頭をかきながらしばし思案する由納言美。表情は真剣だ。
「あんたが特定の貴族に対するいじめ問題に抗議するために断食を行う以上、中下級貴族のとりまとめを千条さまより任されている私も無関心ではいられないわけ。」
「で?」
「貴族のみんなと話し合った結果、今回のあんたの行動を公式に支持することを是としたわ。」
「つまり?」
「あんたの断食が成功するように私たちは協力を惜しまないんだってさ。」
惜しまないないんだってさ・・・ってなによ! 他人事みたいじゃない。 大方、周囲の意見に押し流されていやいや私への協力を容認したのが実態だろう。
「私に協力したいんだったらさ・・・。私の目の前で食事をするのは控えるように通達を出してくれないかな。すごく不愉快だから。」
目の前の猿への皮肉半分、本音半分の要請だ。実際、空腹の状態での食事風景は神経に堪える。
「ああ・・・はいはい、なるほど。もっともなご意見だわ。バリバリっ!」
だから、目の前でバリバリせんべい食うなっつってんのよ!
「ほとんど、あんたに要請しているようなものだからねっ!」
「なによ。分かってるわよ。ていうか、まだ断食始まってないでしょうに。断食始まったら、私だって、いや、私こそ率先してあんたに協力すから。」
「ふん、どうだか。ま、天気予報ぐらいにはあんたの言葉を信じるわ。」
正直言うと、そこまで信じられない。
「ま、私が言うまでも無いけどさ、姫宮の看板を背負って入る以上、無様な結果を出さないことね。 いやいや、冗談抜きでよ。 姫宮の尊厳を汚す行為を連発したら、身内でも消されるかもよ。本音をいうとそれが一番心配なんだ。」
うぐっ・・・痛いところをついてきたな。私が最も苦手とする話だ。正直、そういう話は深く掘り下げないようにしている。
「分かってる。分かってる」
まったく気にしてないそぶりを見せながら、そう簡潔に堪えるのが私の限界だった。

由納言美の飯テロ・・・いや慰問の訪問を丁重にもてなした私は、お茶を飲む暇も無く、別の人の表敬訪問を受けることになった。人気者は大変だよ。

「お久しぶりです。プリンセスキャサリン」
「これは、菫さん。 いつぞやは、大変お世話になりました」
一恋ちゃんの記憶を抹消した件が遠い昔のように思い出される。だが、よくよく考えてみれば、今回も彼女の件で私と菫さんは面会することになったわけだ。
「張り紙読みましたよ。プリンセス。大変感銘を受けました」
「感銘だなんて。私は人のために自分にできることをしたかっただけです」
姉上の懲罰を素直に受け入れるのが嫌だったわけじゃ、断じてないんだからね。
「一恋も喜んでいることでしょう。プリンセス、私たち菫グループは臨時会合を開き、今回のプリンセスの決断を満場一致で支持することになりました。もし、私たちで力になれることがあれば、何なりともうしつけください。」
「えっ!? 本当ですかっ!!」
これは、すごいことになった。いじめ被害者を抱える由納言美から支援を受けられることは、実は想定の範囲内だった。でも、まさか庶民系武道派グループの菫グループから支援を受けられるとは想定外だ。
「もちろん、冗談ではありません。すでに、メンバーの子たちは、食事の話題を控えることと飲食物の持ち込み禁止を自主的に決定しました。」
すばらです! やっぱり慰問はこうでなきゃ。さすが完璧で名高い菫さん。どっかの猿とは大違いだよ。
「ありがとう。 必ずみんなの期待に応えられる結果を出してみせるわ」
さて、その後も続々と慰問の訪問者を迎えることになった。まず、姫宮家の盟友衣川家の娘がご神水を届けてくれた。このご神水は山奥から採取したもので、飲めば気力が充実するという。断食のよい味方になるそうだ。
割愛するが、各貴族の子弟から激励の品が数多く届けられた。断食の無聊を慰めるための、鈴、絵画、音楽CD、書籍、マッサージ師の手配など、贈り物が部屋に山のように積まれていった。さながら今日は誕生日のような賑わいだ。
「ま、誕生日が人の誕生を祝う日だって知ったのはごく最近だけどね」
母上は私の誕生日にはまるで無関心な人だった。それは、故意に無視しているというよりも、そもそも関心がもてないのだ。
でも、今回の断食を成功させて、姫宮の家の名を上げれば、あるいは・・・
「うん。俄然やる気が出てきたぞ!」

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「きゃさりんお嬢様、千条様がお見えです。」
おおおう! 千客万来じゃない! ええと、もしかして、これってあれじゃない? また賞賛とかされちゃう系な流れじゃない? やばいやばいやばい、今日は正月と盆が一度にやってきたような日だわ!!
「きゃさりん、お嬢様? いかがなさいましたか? お具合でも悪いですか?」
「失礼の無いように通しなさい、憂!」

千条さんが来た。 文字にすればただそれだけの話だ。でも、生徒会に対する抗議の断食決意表明をしてからの初めてのご訪問ということを考えるとその意味はあまりにも大きい。なんといっても、40人近い派閥を抱えるだけではなく、由納グループ、菫グループにもそれなり以上の影響力を行使できる立場にある人だ。事実上、この旧校舎の最大実力者といってもよい。

「夜分遅くに訪問する無礼をどうか許して欲しい」
夜分・・・? 私は時計をちら見した。あらーもう夜の十時じゃない。浮かれすぎていて時間の感覚がおかしくなっていたみたいだ、私。
「本来ならば、掲示板を見た瞬間に真っ先に駆けつけたかったのだが、ちと、会議が長引いてしまってな」
てか、この人いつもより疲れているように見える。最近いろいろあったからな。うららさんの看病とか、対生徒会への工作とか。
「いやいや、気にすることないよ。こうしてきてもらっただけで嬉しいからさ」
私の偽りのない言葉だ。
「単刀直入に言おう。現時点では私は派閥のトップとして姫宮さんを支援するとはいえない立場だ」
「なん・・・と」
あんた、いじめ問題に全力で取り組むとか言ってなかったけ?
「当惑するのも無理はない。私はいじめ問題に全力を傾注すると宣言していたからな」
千条さんは、憂がもってきた冷茶に口をつけた。
「だが、派閥の長である以上みんなの意見を無視するわけにもいかないんだ」
「あんたの子飼いの女たちはいじめ問題解決に反対なわけ?」
以前、私の部屋で開催されたいじめ対策会議が頭をよぎった。少なくともあのメンバーは前向きだったと思うが。
「反対の子はさすがにいない。だが、貴族の問題に庶民系学生が巻き込まれることに慎重な立場の子が予想以上に多かった」
「ふむ・・・つまり自分たちに売られたわけじゃない喧嘩を買う必要はないってこと?」
「そうだ。もちろんそんな意見の子ばかりではない。動機はどうあれ、ベーシックインカムを減らした憎き生徒会に対抗するために姫宮さんのもとに結集すべしという意見、また純粋にいじめ問題に反感を感じている子もいる」

集団的自衛権を行使すべきか、日和見を決め込むべきか、千条派閥は意思の統一ができなかったのか。
「でもさ、あんたは派閥のトップでしょう? 鶴の一声で何とかならないわけ?」
「それはだめだ。こういうレベルの案件では強権を発動するのは危険すぎる。」
「執行部一任の動議は提出させなかったの?」
案件の対応を千条さんの側近に丸投げさせる動議を通してしまえば、派閥としての態度を統一できるはずだ。
「その場合、圧倒的大差で可決できなかった場合、派閥内に禍根を残す。最後の切り札には違いないが安易に切りたくない」
千条さんはまた冷茶を飲んだ。珍しく緊張して喉が渇いたのだろうか。らしくない。
「かといって、このまま態度を決めかねていては私の過去の宣言との整合性に疑義が生じてしまう。ま、私の事情なんてどうでもいいが、どうだろう姫宮さん。取引しないか?」
「取引?」
一瞬、千条さんの目がギラリと光ったような気がした。
「いじめの定義に経済的搾取を入れて欲しい。そうしていただければ、千条派閥は姫宮さんの行動を是とし全面的に協力しよう」


そういうことか

おそらく、千条さんは成績劣等生のベーシックインカム半減を広義のいじめ概念に包摂し、派閥内の結束を維持しながら結納グループ、菫グループとの連携も強化したいのだろう。

「姫宮さん。綺麗ごとはなしだ。政治は数だ。言い換えれば、政治とは敵を味方にするゲームなんだよ」

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まあ、言わんとすることは分かる。 いじめ概念を共有して、共同して、共通の敵に立ち向かおうという勧誘だ。敵の敵は味方と言い換えてもいい。私の沈思黙考をどう受け取ったのか千条さんはおさらにお話を続けた。

「キャサリンさんが困惑するのも分かる。あなたの勇気ある行動に異物が混入してしまうような不快感を感じるものと拝察する」
まあ、そうね。私の正義にけちをつけられたような気になるわ。
「あなたの提案を一蹴したら、どうするつもり?」
「その場合は仕方がない。私と私に同心する子飼いの子だけで自主的にきゃさりんさんに協力するにとどまる」
再度、過去に行った千条派閥の面子が頭をよぎる。そうか、断ってもあの連中は協力してくれるのか。
「それだけでも、十分にありがたいけどね。私は」
「ただ、私事で恐縮だが、その場合は派閥に禍根が残る。また、情報が外部に流出しても派閥として罰することが、!!!!!?」
「どしたの?」
急に千条さんの雰囲気が一変したのでさすがの私もたじろぐ。
「しっ!」
騒ぐなということだろう。千条さんはおもむろに二歩三歩窓際に向かって音を立てずに歩いていく。
刹那!
「盗み聞きとは舐めたまねしてくれたな。ああ、おい? 楽な死に方がしたかったらさっさと出て来い!」
え?なになになに? 誰かいるの? どこどこ? ていうか、不審者は投降しても死ぬの決定なんだ。あちゃー、千条さんの身体の周囲が青白い妖気で包まれていく。 ああ、ぶち切れたな・・・これは。

「ああ、撃たないでください。ほら、私、無抵抗だよ。 両手もあげますよ!」
外側の窓枠の下に張り付いていた不審者。しかし、絶体絶命の状況のはずなのに不審者の声はイラつくほど陽気だ。そして、千条さんは窓を開け放ち、不審者の姿が白日の下にさらされる。
「貴様・・・アル操か!?」
「お久しぶりです。 千条様。 」

アル操。生徒会役員で確か会計だっけ。 ・・・盗み聞きとは舐めたまねを。 つい、千条さんと同じ感想が口をついて出る。
「言い訳だけ聞いてやろう。何のまねだ、これは?」
千条さんが詰問する。
「いやあ、私、みゆき副会長のお金使い込んでしまいまして。で、今回騒ぎになっているきゃさりんお嬢さまの秘密情報を手土産にみゆきさんに処分の減刑を願い出ようかとおもったんですよ。はっはっはっ」

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・・・こいつ 悪びれも無くふざけたことを! ええい、千条さんの手を借りるまでもない。私が教育指導をしてやるわ!
「憂! 鞭を持ってきなさい。不埒者を成敗するわ」
どうやら、この女は思ったことをそのまま口にしてしまう癖があるらしい。
「ねえ、あんた、馬鹿なの? そんなことを言ってただで済むと思ってんの?」

「信頼を勝ち取るとたるめですよ。たとえ、自分に不都合なことでも、悪意を持った悪巧みでさえも、あえて包み隠さず全てを公にする。そうすることで、獲得できる信頼もあるのですよ。プリンセス!」

それにしてもめんどくさいことになってきた。千条さんの提案もしかりだけど、このアル操にはどう対応したものだろう。ただでさえ、明日から始まる断食でぴりぴりしているときに余計な悩み事を抱えたくないのよね、正直。

「私の怒りが爆発する前に帰ってくれないかな。知ってのとおり、私は明日から始まる聖戦に備えて英気を養いたいのよ!」
「待ってください!プリンセス!! 今、私の話を聞かないと絶対に損です!」
「さて、鞭の手配が遅れているようなので、派手な爆裂魔法でもぶっ放そうかしらん」
「ご存知のとおり、私は生徒会役員です。役員会議で一票を投じられる立場です。しかも私は、富裕学生層からのプライベートの会合にも頻繁に呼ばれ彼女たちとのコネクションも充実しています」
「10秒数える前に帰ってくださいね♪」
「竜宮皇帝家の皇女様からのおぼえもめでたく、このとおり殿下からプライベートな親書まで頂いております。私の身体を傷つけることは、畢竟殿下への御逆心ありと解されてもしかたありませんよ?」
なんかしらないけど、手紙を取り出して猛然とアピールをはじめているが、その訴えは私にはまるで逆効果だ。
「竜宮家と姫宮家は同格の家格ですよ。暗に竜宮家のほうが上の家格だと言いたいのなら心得違いもはなはだしいわ。今すぐ死んでくださいね♪」
「ああ、お待ちになって。実は私、邪神の呼び声を聞きまして、ここでプリンセスの会話を盗み聞きしろと命令されたんですよ。ほら、よく推理小説とかであるじゃないですか。頭の中で不思議な声が聞こえてそのとおりに動いてしまう病気が。だから、ここに私がいるのは私のせいじゃないんですよ」
こいつには二度と口を開くに値しないと判断した。
「Unlimited explosion!」
私は、魔法をキャスティングする動作を省略し、口で短い言霊を詠唱するだけで魔法を発動できる省略魔法を放った。人一人を無力化するのにティロなんとかみたいな燃費の悪い派手な魔法を選択するほど頭は悪くない。そんなことしたらへとへとになって明日から始まる断食に支障が出てしまう。マラソン大会の前日にマラソン会場までマラソンで行くような趣味はないのだ。

2秒後、アル操は気絶していた。それもそのはず、本人は無数の爆弾を身に受けたと幻視したはずだからだ。つまり、今、放った魔法は対象の精神に干渉する一種の精神操作だ。本当に殺すわけがない。

「見事なお手前だ。姫宮殿。精神操作はあなたの専門ではないと思っていたが、なかなかどうしてすばらしい腕前だ。久しぶりに興奮したぞ」

千条さんからお褒めの言葉をいただけるとは素直にうれしい。
「ありがとう。でも、どうする、この人?」
「差し支えなければ、私が預かろう。姫宮殿は余計なことは気にせず断食に集中したほうがいい」
「・・・それはありがたい申し出だけど」
Faiさんに続いてアル操の身柄まで千条さんが押さえてしまうと、後々生徒会との関係が複雑になる思うんだよね。
「なに、気にする必要はない。Faiさんは自らの自由意志でこちらで養生してもらっているだけだ。もちろん、アル操にも自由意志で今後の身の振り方を決めてもらうつもりだ」
「それなら、もんだいないか。ってもう12時過ぎてるじゃん!」
さすがに寝ないとまずいぞ。
「これは、思いがけず時間をかけてしまい申し訳ない。例の、いじめの定義についての調整の話はゆっくり考えて納得のいく答えを出してくれ。私はこれで失礼する」
千条さんはアル操の身体をヒョイと肩にかついで出て行ってしまった。さすがに力がある。

さあて、寝るか。私が明日から始まる聖戦に備え身体を休めようとベットに身を横たえたときであった。
「お嬢様! 鞭をお持ちしました!!」

「いまさら、いらないよ そんなの!」

はあ、やっぱり、この侍女、役に立たないわ。

「もういいから、出て行って!」
「はあ、ですがお嬢様」
「何? 私はもう寝るの!用事があるなら明日にして頂戴」
「そうですか・・・衣川様がお目通り願っておりますが・・・追い返しまね」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!失礼のないようにお通ししなさい!!」
衣川家の娘に無礼を働いたことがばれたら、母上に殺されるからマジで!いくらこちらが格上でも、伝統的に、衣川家は姫宮家に並々ならぬご尽力を賜っている。結果、世間では姫宮家は姉も同然、衣川家は妹も同然 とまで言われている。

眠いなんていってらんない。それに、良識ある衣川さんがこの夜更けに訪問するなどよくよくのことだ。
「ああ、プリンセス。夜分遅くにごめんね? どうかベットでお休みになりながらでもいいから私の話を聞いてください」
そんなわけにはいかない。いやどうかお休みになりながらでもというような押し問答が繰り返された結果、私はベットで横になりながら会談することになった。病院の面会みたいだ。

「単刀直入にご忠告するわ。千条さんの提案にのってはいけません」
「えっ・・・あの なんで知ってるの?」
「私にも自前の情報網ぐらい持っています。千条さんの派閥メンバーの中にも私の息のかかった子達がいるのですよ」
ことさら、得意気になるでもなく淡々と解説してくれた。
「ああ・・・そう。でも、なんで千条さんの提案はだめなの?」
「キャサリンお嬢様の身が著しく危険になるからです」
「え? なんで?」
「いじめ問題をベーシックインカムの問題にまで拡散させてしまった場合、生徒会は絶対に妥協しません。なぜなら、福山派閥の子達は、能力主義を貫徹すると言う点では一致しているからです。つまり、千条様の提案にのるということはキャサリンお嬢様にとっては破滅の道なのです」
「ああ・・・なるほど」

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いじめ問題の表向きの構図は、
貴族 VS 対貴族強硬派 
ところが、福山派閥の半分は貴族との協力なしで研究ができない事情があるから福山さんは対応に苦慮している。裏を返せば、だからこそ、こちらにも付け入る隙がある。

でも、もし私がベーシックインカム半減もいじめだと認定したらいじめ問題の構図は、
貴族+成績劣等生 VS福山派閥
となってしまい、みゆき副会長は妥協を検討する理由がなくなる。みゆきさんが妥協しなければ、私は断食を終了できない。詰みだ。

あぶない あぶない! ほんの少しの援助と引き換えに、危うく破滅するところだった!
やはり、断食に意識が集中しすぎるあまり視野が狭くなっているみたいだ。十分に注意しないと命取りになる。
「ありがとう。忠告してくれて。あやうく、身の破滅を招くところだったわ」
「いえ、くれぐれもご自愛専一に。 なにか困ったことがあったら遠慮なくおよびください。善処します」
衣川さんは、話を終えるや否や、もてなしのお茶・お茶菓子を丁重に断り退出した。
どっかの猿とは大違いだ。

さて、今度こそ寝るか。
はああああ・・・今日は疲れたー。もう、今日だけで一年分の活躍をした気分だよ。早く寝よ寝よ。
私は泥のように眠りについた。その刹那であった。たぶんだけど。
「お嬢様! 由納言美様がお目通り願っております」
「追い返しなさい!」

田舎貴族の娘に付き合ってるほどの余裕はないのよ!
だが、田舎貴族は田舎者にふさわしく入室の許可をとる前にどかどかがやがやと私の部屋に入ってきた。

うん、どかどかがやがや?

「さあて、今日は暴れるわよお! オールナイトで立食パーティー! 喜べ、ハングリードッグ!私のおごりよ」
なんか、猿がわめいている。というか、ハングリードッグって飢えた犬のことよね? 言うまでもなく、私のことじゃないよね?

「言美お嬢の頼みとあっては手が抜けません! 今日はがんばってから揚げを揚げさせていただきます」
「お嬢! 私は魚を焼きますね!」
「お嬢! 注文したお肉、100キログラム。今届きました!」
「お嬢! 調理器具の搬入も始めちゃってよろしかったですか?」

なになになになに? 何が始まるの! 私は、完全無視を決め込むために頭から布団をかぶっていたが、とても無視できるような雰囲気じゃない。てか、油っぽい、嫌な匂いが充満しているんですけど。

「ちょっと、あんたたち、何しにきたの! 迷惑だから帰ってよ!」
いたたまれなくなって、私はばね仕掛けのびっくり箱のようにベットから跳ね起きた。

「何いってんの、あんた。 今夜中に、食べ物なんて見るのもいやなくらいに食べこんでおかないと、断食がつらくなるだけよ。食べて、吐いて、食べて、吐いて、朝まで食べ続けなさい!」
お嬢・・・じゃなかった、由納言美が反論する。言わんとすることは理解できるが、その、あまりにも田舎者じみた断食対策にどん引いてしまう。私が困惑を隠せないで入ると、由納言美の側近と思われる人物が私の前に現れた。しかも最敬礼した。

「由納九連枝を代表して、ご挨拶させていただきます!本日は、お嬢のご依頼により、朝まで立食パーティーを盛大に挙行させていただきます。」

由納九連枝とは由納言美を支える九人の貴族系学生のことだ。貴族系学生は、由納九連枝の他は、私を支える衣川家、また独立系貴族の一恋ちゃん他二名がいる。でも、大事なことは、由納九連枝のおかげで、由納言美が貴族系学生の指導的立場に君臨できることだ。ここでも数の力が重要になっている。

もっとも、由納九連枝を合わせても、まだ衣川家のほうが経済的・政治的な力は大きいけどね。それにくわえて、文化的素養度も衣川家が格上だと、たった今確信した。

「あのさ、気持ちはうれしいけどさ。私は寝たいんだけど」
「プリンセスは眠いそうよ。 まず、眠気覚ましのコーヒーを入れて差し上げなさい!」
「かしこまりました! お嬢!」

「いや、コーヒーとかいらないし」
私の部屋は今や騒然としていた。 熱した鉄板の上には、ジャガイモ、なす、とうもろこし、牛肉などがすでに焼かれ始めている。うわあ・・・臭いが部屋に染み付きそう。

「憂! 換気扇回して! あと部屋の窓を開けなさい!」
私は空気の循環の確保を命じた後、この不届き者たちへの対応を検討した。

「わっ、すごーい。このお風呂泳げるよ!」
「えっ! マジ?」
「ちょっとあんたたち! 私のお風呂を勝手に使わないでよ」

うわ・・・私の想像以上に低レベルな学生もいるよ。
「このボードゲーム、どうやって遊ぶんだろう」
「オセロ勝手に出さないで!」

ちっ、なんて人達だ。いささか以上に良識が欠落している子がちらほらいるよ。
さすが、筆記試験免除特権で入学してきた貴族たちだ。粒よりの愚か者たちだ。
「ほら、肉焼けたわよ!」
もちろん、一番頭おかしいのが、目の前でどっちが縦で横だが区別できないくらいに分厚いステーキ肉を
差し出しているお嬢・・・じゃなくて猿だ。
「あんたねえ・・・頼むから帰ってよ」
「何言ってんの。宴はまだ始まったばかりじゃない」

仕方がないので、肉をナイフで切って食べてみる。さすがに美味だ。
美味だけど、明日の朝の気持ち悪さを想像しただけで吐いてしまいそうだ。
まあ・・・仕方がない。せっかくのおもてなしだ。30分ほど付き合ったら帰ってもらおう。
私が心の中でため息を付いていると、先程の由納九連枝の代表者が私の目の前に再び現れた。

「プリンセス! このたびのいじめ問題に対する抗議の断食のご決断。感服いたしました。われわれ、由納九連枝はじめ全ての貴族はプリンセスのご決断を支持します!」
高らかに宣言する姿が、頼りがいがあるといえなくもないか。実際、私も先行き不安だったし。
私も支持します! という叫び声があちこちから湧き上がる。 中には福山姉妹のことを悪魔姉妹と断罪し、悪魔姉妹討つべしなどと、叫んでいる者までいる。福山姉妹は、直接いじめに関わっていないが、いじめ問題を放置しているので、いじめ当事者と同様に憎悪の対象になっていることがよく分かる。

「プリンセス! 万一、悪魔姉妹が黙殺を決め込み、プリンセスの断食にめどが立たなくなった場合は、」
「場合は?」
勇ましいオーラに圧倒されごくりと生唾を飲む。彼女は、懐から光る物を取り出した。

「この、妖刀指標丸にて、悪魔姉妹を成敗し、返す刀でこの首かききって死ぬ覚悟です! 」
よ!言うだけ番長! 今日も威勢だけはいいね! などと茶化す声が響くと、顔を真っ赤にして、無礼者、決闘だなどと怒りの声を上げる目の前の危険人物。しかし。どっと、周囲から笑い声が上がるのを見ると、どうやらこういうやりとりは、彼女たちの中では日常的な光景なのだろう。

「はあ、元気だけはいいねえ」
一応、前向きなコメントをする私。優しすぎていやになる。来世は天国行き確定だね。
「あら、何言ってんの、あんた。この子達が元気なのは旧校舎にいるときだけよ?」
由納言美が意外な指摘をした。

「は?なんで?」
「やれやれ、何にも知らないのねえ。これも一恋ちゃんのいじめ問題と大いに関係があるのよ」
「どゆこと?」
「一恋ちゃんのいじめは、成績が悪いことが理由だって知ってるでしょ?でも、これは半分嘘。確かに彼女の成績は庶民系学生の中ではかなり低いけど、実は貴族系学生の中ではトップクラスなのよ」
「えっ? 何それほんと? じゃあ、なんで成績を理由にいじめられてるのさ?」
すっと由納言美の目が細められた。
「貴族への牽制のためだよ。成績の優秀な貴族を悪い成績を理由にいじめれば、他の貴族は萎縮するでしょ。ああ、あのこでさえいじめられるのなら、私はいついじめられてもおかしくないってことになるじゃん」

Comic09.jpg

うわっ! 想像以上にたちの悪い話だね!!! さっきから脂っこい食事で胸がむかむかしてたけど、今度は別の理由で吐きそうだよ。
「何それ! 人間の屑じゃん!」
「そうだね。嫌な話よ、まったく。だからこそ、今回のあんたの決断にはみんな感謝してるよ」
「ふん・・・俄然闘志が湧いてきたわ。絶対に断食を成功させる!」

由納言美はさらに目を細める。
「その心意気はホント、敬意に値するわ。でもね、要求を通すためにはこっちの数が多いほうが有利なのも事実。貴族グループと菫グループ、それから千条派閥を抱き込んで一大勢力を作っちゃいなよ」
「よし!、そうし・・・」

ちょっと待てよ。千条派閥とはくっつけないんだった。経済的搾取をいじめ概念に包摂したら、福山派閥の団結を強くするだけだ。私は、衣川さんから受けた注意をかいつまんで説明した。

「ふむ・・・ちょっとまってね」
由納言美は、タブレットを取り出して起動させた。どうやら、一恋ちゃんのいじめ問題を調査した資料を読み込んでいるらしい。
「うーん、ないか。残念ながら、一恋ちゃん自身が経済的搾取を受けた事案はないね。これじゃあ、千条派閥との協力は難しいね」
一恋ちゃんがかつあげ程度のせこい案件でも経済的な搾取を受けていれば、千条派閥の意向と関係なく堂々と経済的詐取をいじめ問題にすることができた。なるほど、そういう発想はなかった。

「というわけで、千条派閥とは組めないわ。でも、千条派閥の有志が協力してくれるから、当面はそれでよしとしようと思う」
「いや、まって!」
由納言美が話を止めた。
「一恋ちゃんは、ノートを破ったり、筆箱を壊されたり、弁当を廃棄されたりしている。そういう事案は無数にある」
「でも、それは搾取ではないよ?」
搾取とは、相手のものを自分のものにしてしまうことだと思う。言美が指摘した事案は、
「ただの経済的損害だよ」
「それで十分に千条派閥と足並みが揃えられるよ!だって、ベーシックインカム半減は、搾取だけど、同時に経済的損害だもの」
うーーーーーん・・・。しばし考える。ベーシックインカム半減は、成績劣等性に支給されるお金を半分巻き上げて、成果をあげている学生に贈与する、といういわば搾取が本質だ。経済的損害には違いないけど、それだと本質の半分しかついてないんだよね。生徒会側からすれば、「お金欲しいなら成果挙げればいいじゃん」ってことだし、千条派閥からすれば「ベーシックインカムの所定額の支給は入学の時に約束したはずだ」ということになる。
「一個人にたいするノート、筆箱、弁当の損壊と、成績劣等生集団に対するベーシックインカム半減の問題を同じ土俵で議論するのは無理だと思う」
「ま、そのへんの調整は私でするからさ」
「だめ!今、本当に守られるべきは一恋ちゃんだよ。派閥間対立に発展したら、問題が拡散しちゃう」
「だからさあ。一恋ちゃんの問題が片付くまでは、ベーシックインカムと結び付けての発言はやめるように交渉するんだよ」
何でわかんないかなー、とため息をつく由納言美。
「で、一恋ちゃんの問題が完全解決したら、その見返りに千条派閥のベーシックインカム問題に協力するの」
うーん・・・なんだかすっきりしないな。
「今、貴族、菫グループ、千条派閥にそれぞれ恩を売っておけば、旧校舎でのあんたのプレゼンスは(存在の重み)を一番大きくなるでしょうねェ。旧校舎をまとめることができれば、あんたの一存で枢密学校を牛耳れるでしょうねェ。陛下の諮問機関であるこの学校を支配できれば、国政にも影響を与えられるでしょうねェ。」
「何が言いたいのさ」
「そうなれば、あんたの母親は大喜びするでしょうねェ」
くくく・・・と低く笑う由納言美。
「あんたねえ・・・ここで母上を持ち出すのは卑怯だよ」
「口がすぎたわ」
本当に反省しているのか、この猿人は。
「まあ、冗談半分だけどさ。あんたも姫宮の看板を一生背負う以上、お家の繁栄のために尽くさなきゃだめよ?でないと、天寿さえ全うできないかもよ」
それは事実だ。姫宮の家政機関は、帝国の生産・流通・金融を一元的に支配する巨大企業体。姫宮の家族であるということは、たとえ末妹といえども何がしかの貢献が求められる。それができなければ、「病死」してしまうかもしてしまうかもしれない。
「とにかく生き伸びることを考えなさい。そのためにできることは何でもしなさい」
「とか何とかいって、結局、千条さんに恩を売るために私をだしにしてんでしょ?」
「ま、それはともかく」
しれっと流しやがった。
「私も生き残りたいからね」
そうだった、こいつにも守るべき家門があるんだな。

私の憂鬱とは関係なく宴は夜通し盛り上がった。

・・・



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Catherinefx

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もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

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