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コーラ

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はああ・・・だだっ広いお屋敷ですわね。このくらい大きなお屋敷だと、あと10人くらいは召使がいてもおかしくないと思うけど私一人しかいないんだな。

とある公爵家のお屋敷。そのお屋敷の数多ある部屋の一つである、ゲストルームの掃除を初めて一時間が経過している。ゲストルームは畳10畳ほどの広さで、ベッドとテレビが置いてあり、もちろんバストイレ付きだ。当家をご訪問のお客様に気持ちよく過ごしていただくためにも定期的な掃除は欠かせない。
まあ、本音を言うと、お友達のいないこの家の主にはあまり入り用な部屋とは思えない。事実、私がここに勤めてからどの部屋も利用されていない。とはいえ、ずっと締め切ったままだと、部屋の空気が澱んでしまうので定期的な掃除は必須だ。実際、入ったらちょっと嫌な臭いがしたので、窓を全開にして掃除をしている。

だいぶ臭いがなくなってきたなと思ったら、突然携帯がなった。この家の主からだ。彼女は短気なので、急いで出ないと。

「憂!? 今日緊急でVIPがいらっしゃるから、談話室の掃除となにか・・・なにかあるでしょう!?なにか飲めるものとか用意しておいて!」
pi! 私が何か話す間もなく切られてしまった。相変わらず性急なお嬢様だ。学校でもこのような調子かと思うと心配になってくる。まあ、私の出身成分は一番低いC。それに対してお嬢様は貴族を意味するAの最高位=公爵なのでこの扱いは仕方のないことかもしれない。
 実際、お嬢様の家系は選帝侯という皇帝選出権を持つ地位にある。つまり、理論上は皇帝にだってなれるのだ。

まあそんな話はいい。早急に談話室の掃除とおもてなしの用意をしなければ。こちとら一応高貴な家だから、おざなりなもてなしは姫宮家のプライドに関わる。

今日のお客様は40歳くらいの紳士と従者の方一名。紳士の方は身分のある大金持らしい。いわゆる商業系貴族だ。身なりこざっぱりしていて清潔感がある。アグレッシブに自分は金持ちだぞ!っとアピールする気はさらさらないようだ。細身の体だが目に力があるのが印象的だ。一方の従者の方は大きなダンボールを重そうに抱えている。

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私はお荷物をお持ちしましょうと申し上げたが大事なものなので、と丁重に断られてしまった。しかたなく、挨拶もそこそこにお嬢様のいらっしゃる第3談話室にご案内する。


お部屋に入った瞬間、いちごの匂いふわった出迎える。お嬢様の好きな匂いだ。しかし、お客の方は二人共一瞬まゆをしかめる。どうやらお気に召さないようだ。

そしてソファの前でちょこんとたってペコっとお辞儀をする少女がいた。彼女こそ、私の主であるきゃさりんお嬢様である。

正式な名は、姫宮キャサリン。

金髪碧眼のまだあどけなさの残る中学一年生。桜色のほっぺたは柔らかく豊かな表情を形成することを可能にしている。指でほっぺをぷにぷにしたらお餅のようにびよーんと伸びそう。胸の大きさは控えめで今後の成長に乞うご期待、といったところか。

ちなみに純日本人なのに金髪碧眼であるのは、魔法の産物である。貴族ともなれば、自分好みに皮膚の色や髪の色をカスタマイズすることができるのだ。お客人もそのことは十分にわきまえていたのであろう、またまゆをしかめてしまった。紳士は少しだけ目を細め、「なんなんですか、その髪の色は。それが一流貴族の趣味ですか」といいたげな冷たい視線を投げかけたが、一瞬で柔和な表情を取り戻した。


などと人間観察に興じているうちに、お嬢様と紳士の間のテーブルに、12本の黒い液体の入ったプラスチックのボトルが置かれた。黄ばんだラベルが年代の重みを彷彿とさせる。中に入っている液体はお醤油みたいにどす黒い。飲めるのかしら?これ。お客様のおっしゃる話によると2013年度物のコーラという商品らしい。500年以上前のものだ。紳士は訥々と語り始めた。

「いきなり押しかけて申し訳ない。実は、近々、娘の誕生会がある。だから、娘に何かサプライズを用意してやりたいと思ってな。私の古代物品コレクションを放出してやろうと考えたのだよ。だが、このままではもちろん飲めない。そこで、時間系の転移魔法で飲料に耐えられる状態に戻して欲しいのだ。」

なるほど、娘の誕生会でいいところを見せいたい父親の気持ちは理解できる。しかも、「転移系魔術」は姫宮家のいわばお家芸の一つ。この場合は空間ではなく時間の転移になるので、時間戻しの魔法になる。だが、お嬢様の体調を第一に考える私にはどうしても看過できないことがある。

「お話は分かりました。ですがご存知かとは思いますが、転移系の魔法は重労働です。12本では、お嬢様の心身に負担がかかりすぎます。」
「心得ている。だから、できるだけ多くというわけにはいかないかな? ぶちまけて言うと最低6本はパーティーで出してやりたい。娘の友人もたくさん祝いに来るだろうからな。」
「6本でも多いですよ? 4・・・いや3本くらいでどうでしょう?」
無理をさせすぎて卒倒する、なんていうのも決して珍しい話ではない。魔法はとても危険な労働なのだ。できればこの程度の依頼は遠慮して欲しい。

どれだけこの依頼が危険なものなのかを失礼にならないようはっきり伝えようと考えてきた矢先、いままで黙っていたお嬢様が突然口を開いた。

「年に一度の娘のお誕生日を盛大に祝ってあげたい親の気持ち、とっても素敵だと思います。」
眩しいものを見るかのように、紳士の顔を見ながらお嬢様は言った。そういえば、去年のお嬢様のお誕生日は寂しいものだった。友人はいないし、お嬢様の母親さえも駆けつけてくれなかった。、少しでも誕生日らしいスペシャル感を演出するためにせめてご馳走を用意しましょうと進言したが、いつもどおりの質素な料理で良いと言われたっけ。あれは切なかったな。お嬢様も誰かに祝って欲しかったのではないだろうか。

「わたしやります! 6本くらいならギリギリ大丈夫です」
力強く訴える童女。わかる。わかりますよ。親の愛に飢えたお嬢様にとって今の紳士は聖人のようにその眼には映るのでしょう。でも、やめてほしいむりしないでしんじゃうよ。ぎりぎりだいじょうぶってことはからだをさいだいげんにむりさせるってことじゃない。

「だめです、お嬢様。お体に障ります!」
「大丈夫だよ。年に一度のお誕生日だもの。私、協力したい。それに、魔法で多くの人を助けるのが、貴族の存在意義だとお母様も常日頃からおっしゃっていたもの。」

”持てるものには義務がある”
貴族は魔法が使えるので、その能力を世のため人のために出し惜しみしてはならない。
とても大事な教えである。

でも、体を壊しては元も子もない。
「ですが、負担が大きすぎます。せめて本数を少なく、せめて4本くらいで」

やめさせようとさらに説得する間もなく彼女は瞳を閉じ集中力を高め始める。そしてボトルの前で膝立ちをしてお祈り捧げる。その刹那、不思議な幾何学模様がコーラが置かれている机の上に浮かび上がび、青白い光がボトルを包む。

魔法を詠唱する過程に入ってしまった以上、周囲の雑音はかえって余計な負担になってお嬢様の心身を蝕む。黙っているしかない。

ボトルの中の時間が巻き戻る。黄ばんだラベルにも生気が宿る。黒い液体が次第に泡立ちを強めジュワジュワ気泡を放つようになった。

「はあああ・・・」
深い息を長く吐き吐き出すお嬢様。

「おおっ、素晴らしい! これだけ手際よく転移軽魔法を制御できる子はそうはいない。ありがとう娘も喜ぶよ。」
感謝感激する紳士。丁重なお礼を述べたあと、従者に新品になったコーラを運ばせ帰ってしまった。指定された金額の二倍のお金を渡そうとしたので、指定以上のお金は受け取れない、いや受け取って欲しいの押し問答でちょっと時間がかかってしまった。

結局、指定金額よりも少し色の付いた金額を受け取り、お客様二人お見送りをした。その後、お嬢様のお部屋に戻ると大変なことになっていた。さきほどまで笑顔でいたお嬢様がソファのにもたれ、両腕をだらりと下に落している。だらだらと大粒の汗をかいている。顔が紙よりも白い。

まずい!、低血糖症だ!

間髪いれずに、懐に隠してあったお砂糖の瓶を取り出す。
「お嬢様、お砂糖をお持ちしました。早く! 早く飲み込んでください」

・・・
夜の十時。
キャサリンお嬢様の容態が気になる。
今日十回目となる容態の確認に向かう私。


「お嬢様? 入りますよ?」 トントンとノックをして入室する。うん完璧だ。
この前、ノックしないで入室したら、すごく怒られたもの。


「きゃさりんお嬢様・・・そろそろご就寝なさいませぬと、本当に倒れてしまいますよ?」

入室すると、お嬢様のお好きないちごの匂いが出迎えてくれる。
いちごの匂いでいっぱいのお部屋とは対照的に意気消沈した姿でデスクに座っているお嬢様がいた。まるで人形が座っているようだ。

「ふうぅ」 大きくため息を吐くお嬢様。
やや、不安そうな面持ちだ。

「お嬢様!? ベットでお休みになられないとダメですよ!」
心配になってお側に駆け寄る私。

「憂か、宿題をやらなきゃいけないから」
「そうですか」では私がお助けいたしましょう
と言えない。それは当人のためにならないから、という理由ではなく単純に私自身に能力がないからだ。ホームレス生活が長くて学校の勉強は全然してない。

それが逆に勉強への憧れを喚起させ、路上生活をしているときは図書館に頻繁に通い、またこのお屋敷に入ってからも蔵書やネットを駆使して自分なりの勉強を積んではいるが、自分の好みを優先させたため知識の偏りが激しい。歴史や宗教学や心理学や語学の知識は豊富だが、例えば今お嬢様が取り組んでいる中学一年生レベルの数学はお手上げなのだ。

そもそも、お嬢様は宿題どころではないはずだ。明日学校へ通うなど論外である。
絶対に倒れてしまう。

そのことを申し上げると、
「だいじょうーぶ。私、自分の体はよくわかっているつもり。」

「ですが、一日はお休みにならないと。倒れてしまいますよ?」
必死に懇願する私。

「ダメだよ。第一、憂は私の日々の様子を全て首都にいるお母様に報告する義務があるのでしょう?私が休むと心配させちゃう。それに」
「それに?」
「お母様、絶対怒るよ。このくらいのことで休むとは何事ですかって。だから、休むとむしろ怖くて辛いんだ。」

「そのことでしたら、ご心配には及びません。奥様にはきちんと学校に通ったと報告しておきますから。」
「ええっ!バレたらすごく怒られるよ!?」
「バレなければ良いのです。第一、私はあくまでもお嬢様にお仕えしているのであって奥様にお仕えしているわけではありません。」
公然と、奥様への反逆を宣言する私に少し驚いている様子のお嬢様。
「ふん。貴族院議員の議長まで務める母様に逆らう出身成分Cの召使かあ。いや愉快愉快。」
コロコロと、笑い出すお嬢様。けっして嫌味な口調ではない。
「ああ、でもごめんね憂。明日は休むにしても、この宿題はさっさと片付けちゃいたい」

まあ、明日休みにするなら多少の無理は大丈夫だろう。
「お嬢様、お夜食にホットミルクなどはいかがでしょう?」
「うん、いいかも。持ってきてくれる?」

「すぐにお持ちしますね。」

本当は勉強の手助けができればベストだ。しかし無い袖は振れない。少しでもお嬢様のお役にたてることをよしとしよう。 

さっと部屋を出る私。節電のため照明を暗くした長い長い廊下を小走りに進み、階段を下りる。またしばらく小走りに進み、台所の冷蔵庫からミルクを取り出し、ミルクパンに火をかけホットミルクを作る。

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・・・



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テーマ : オリジナル小説
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プロフィール

Catherinefx

Author:Catherinefx
ブラックあずにゃんさんのTwitterによる寄稿のライトノベルです。
絵:きゃさりん

とある乙女の裁量決済(ロスカット)
http://catherine2010.blog119.fc2.com/

もともとは上記ブログで紹介させていただいていたのですが、最新記事から降順では読みづらいため、こちらに読みやすくまとめてみました。

最新記事も上記ブログで読むことができます。

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